どの会社でも起こり得る不正会計・横領

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1.エルピクセルの横領 

人口知能(AI)の開発会社であるエルピクセルの元取締役が約29億円もの巨額横領したことにより逮捕されたことが報道された。元取締役は、個人でFX取引を行い、その損失の穴埋めに会社の口座から個人の口座に資金を移動させていた。横領の発覚を防ぐために、会社の銀行口座の預金通帳の写しを改ざんしていた。

2.ワイヤーカードの不正会計

ドイツのフィンテック企業、ワイヤーカードでは、旧経営陣が2015年から貸借対照表や売上を過大に計上する手法により不正会計を行っていたことにより、逮捕された。この事件は、19億ユーロ(約2280億円)の現金が行方不明となっていることが端を発し、明らかとなった。不正会計額としては約2000億円を超えることが想定されている。

3.横領・不正会計は常に起こり得る

私がこれまで調査等を行ってきた事案や事件となったケースを分析すると、大きく二つの類型に分かれる。

① 資金繰り調整型

 BS、PL等の財務諸表の売上などを過大計上することによる粉飾決算を行うケースである。上場企業においてもこれまで多数の粉飾事案が発生しているが、ベンチャー企業でもIPO準備会社においても発生することが少なくない。ベンチャーの場合、会社の実態のビジネスの成長がうまくいかず、資金繰りが窮しているなか、金融機関や投資家からの資金調達を行うために、粉飾を行う。

② 個人利得型

 役員または従業員が個人的な利得を得るために、会社資金を個人へ移すパターンである。

 多いのが株式やFXの信用取引において損失を穴埋めするために、会社資金に手を出してしまうケースがある。私が対応したケースでは、地方営業所の経理担当者が5年間に渡って合計約2億円もの金額を横領していた事案もあった。この経理担当者は、一人で経理担当をしており、10年間以上一人で業務を行っていた。決算時期の本社へ銀行の残高証明を提出する際、残高証明を改ざんしていたことにより発覚を防いでいた事案であった。

4.権限の集中・実態がわかりにくい取引が不正を生む

(1)「一人しか知らない」を作らない

 不正会計・横領事案の予防策としては、会社や他人をだますことが容易な状況(不正のチャンス)をいかに潰せるかにかかっている。監査法人、内部監査、経理部門などによるチェック機能があったとしても、やはり不正会計・横領事案は発生する。内部管理の体制をどれだけ厳格しても、なかなか防げない。特に、ベンチャー企業や地方の営業所や子会社では権限が一人に集中しやすい。

結局、いかに一人だけの状態を作らないか、がポイントになる。「さすがに横領しないだろう」という思いから、どうしても原本を確認せずに、提出された資料を鵜呑みにしがちである。「一人しか知らない」状況を作らず、第三者がいつでも確認できる状況と実際に確認を行うことを心がけたい。

(2)「よくわからない取引」こそ危ない

 経理部門などは、事業部サイドの取引内容を正確に理解していないことが多い。そのため、事業部サイドの「システム開発に使った費用だから」「この取引ではコンサルティングを行っているから売り上げが発生する」などの説明に、経理部門が特に疑義を挟まず計上処理を行っている。特に、新規のビジネスモデルや新規の取引先との取引について、やはり経理部門をはじめ、何をうちの会社は売って稼いでいるのか、うちの会社は何を支出して売上を作っているのか、ということを正確に把握したい。定期的に事業部からビジネスモデルや取引先の解説を受ける機会を設けることが必須である。