20年11月19日、政府の成長戦略会議で「ウイズコロナの中で、バーチャルオンリー型の株主総会が米欧で認められていることに鑑み、わが国でも来年の株主総会に向けて法改正をすべきではないか」という点が議論された。現在の会社法では、株主が参集する実在の「場所」を設けずに株主総会を開催することが許されていない。そのため、現状では、実在の「場所」を設けながらオンラインを併用する「ハイブリッド型株主総会」しか認められない。今回のコロナ禍を経て、「ハイブリッド型株主総会」に舵をきる企業が大幅に増加した。2020年6月までの時点で、日本において「ハイブリッド型総会」を導入した企業は122社であった。「ハイブリッド型総会」は、「参加型」と「出席型」に分かれるが、「出席型」は、限りなくバーチャルオンリー型の株主総会の方式に近い。今回の政府のバーチャルオンリー型(完全オンライン型)の動きは、日本市場の更なる活性化に向けて非常に望ましいと考えている。
1.いわゆる荒れた株主総会時代
日本は、これまでリアルの株主総会運営を大切にしてきた。今やほとんど見られないが、かつて、いわゆる総会屋、が存在した時代があった。この時代、総会屋対策を行い、株主総会をいかに円滑に進めるのか、という点について企業は大変苦労していた。総会屋対策を法的に綿密に練り上げ、総会対応を確立したのが、久保利英明弁護士(日比谷パーク法律事務所)であった。リアルで行うことしか選択肢がなかった時代、総会を混乱させる総会屋の動きをいかに食い止め、適正に株主総会を進めるのか、これこそが、法的武装をした総会対応弁護士の存在意義であった。
私自身、総会屋全盛期時代を経験した中島茂弁護士のもとで、株主総会の適正な運営の方法について多くを学んだ。株主総会は、リアル開催が当然であり、その中、当日、いかに適正に株主総会を進めるのか、総会屋の激しいレベルではないものの、株主の方々から厳しい質問を受ける経営陣をいかにサポートするのか、本当に痺れる瞬間であった。「議長不信任の動議」「剰余金の増配の動議」など、動議の対応も必ずリハーサルを行い、どのようにして動議を否決し、原案を可決させるのか、も常に念頭において対応をしていた。
2.株主重視の総会運営へ
総会屋が存在しなくなってきた2000年ころから、株主総会は、「シャンシャン」で終わらせる総会から、丁寧に株主の方々の質問に答え、株主を重視する総会運営の在り方に変化していった。2006年の会社法改正以降、より一層株主重視の姿勢が鮮明となっていった。最近のIPOをしたベンチャー企業においてもよく見受けられるが、事業報告の内容をより詳細にわかりやすく説明を行い、株主の方々からの意見に丁寧に耳を傾け質問に答えている企業も多い。株価の低迷している企業では、株主の方々からの厳しい質問に対して一定の緊張感があるものの、「荒れた総会」時代と比較すると、圧倒的に議事進行はスムーズである。株主総会取り消しに怯えながら、総会をギリギリ運営していた時代とは格段の差がある。
3.これからの株主総会
そこに、このコロナ禍がやってきた。コロナ禍は、ある意味、株主総会の大改革を推し進めてくれた。日本と異なり、アメリカやヨーロッパでは、バーチャルオンリー型の株主総会は法的に認められている。日本も確実にバーチャルオンリー型の株主総会が認められる時代がやってくる。そのためには、会社法の大きな改正が必要になってくる。私たち弁護士が悩んだ、株主総会の当日の株主の方々からの質問に対して、どのように回答するのか、動議が出るのでは?退場命令まで出す必要があるのでは?など、これまで法的にリアルに出席していた株主に認められていた様々な権利を認めない方向にしなければ、バーチャルオンリー型の運営は不可能である。株主にとって、バーチャルオンリー型は便利になるものの、これまで株主に認められていた権利が認められなくこともある。
経団連では、バーチャルオンリー型の改正に向けて、様々な提言を行っているが、この提言を一定程度、法改正に反映しない限り、バーチャルオンリー型の実現は不可能である。いずれにせよ、私はバーチャルオンリー型の株主総会の運営ができるようになることは非常に楽しみである。2021年の東京オリンピックの開催とともに、会社法改正の動向も本当に注目に値する。