アジャイルメディアネットワーク 第三者委員会調査報告書を読み解く「CFOによる不正出金」

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アジャイルメディア・ネットワーク株式会社(AMNといいます)では、2018年ころから、取締役CFOが資金を不正に流出させていた事実が判明し、2021年6月21日、AMNが設置した第三者委員会による調査報告書が開示されました。

2021年8月19日、AMNは東京証券取引所(東証)から公表措置および改善報告書の提出が求められています(9月2日にAMNは報告書を提出)。この公表措置と改善報告書の提出は不正等の発覚により第三者委員会設置された企業の中でも、特に会社の内部統制上の問題が大きく、上場の維持に向けて改善を徹底すべきとする事案において求められるものです。東証としては、本件を非常に重く受け止めていることが見受けられます。今後、AMNが徹底したガバナンス強化に動いていくことを注視していきたいと思います。

不正に出金されたのは2億6800万円

簡単に、事案の概要としては、AMNの開示をみますと、

社内で絶対的な地位を築いていた当時の取締役CFOが管理部の内部統制を無効化し、管理部従業員に指示することで小口現金の不正な出金、システム会社への架空発注等により、資金を不正に流出させていたことが明らかになりました。

第三者委員会の最終調査報告書公表及び役員報酬の減額に関するお知らせ(アジャイルメディア・ネットワーク株式会社)

調査報告書によると、このCFOが2018年ころから、会社から不正に支出した金額の合計は約2億6800万円にのぼります。
今回の不正発覚により、AMNの財務に与えた影響は、

2018年12月期第2四半期から2020年12月期までの決算短信等において、上場規則に違反して虚偽と認められる開示を行い、それに伴う決算内容の訂正により、2018年12月期の当期純利益が6割以上減少し、また、2019年12月期の親会社株主に帰属する当期純損失が8割以上増加することなどが判明しました。

第三者委員会の最終調査報告書公表及び役員報酬の減額に関するお知らせ(アジャイルメディア・ネットワーク株式会社)

と発表しています。かなりインパクトのある数字です。

どんな不正だったのか?

CFOの不正の内容は、昔からシステム開発業務を行う会社において行われがちな手法による不正支出です。調査委員会によると、大きく分けて3つ不正流出があるとしています

小口現金による経費精算を利用した不正出金【不正流出①】

多額の小口現金の引き出しの指示

CFOは、経理担当社員に対し、小口現金の引き出しを指示して出金しています。1回の引き出し200 万円以上の額であることが多く(最大額は 1000 万円)、頻度 としては多い月で1か月間に7回行われていたとのことです。2018年から約3億円以上の小口現金の引き出しが行われていたようです。

現金引き出しを監査法人に発覚しないようにするための手法

やはり多額の小口現金の引き出しがあったことから、現金の帳簿残高と実残高との乖離が生じます。この点につき、監査法人に発覚することを防ぐために、様々な隠蔽工作をしていたようです。その中でもシンプルかつ悪質な手法として、

懇意のシステム会社からの領収書の偽造

CFOは知り合いのシステム会社に対し架空の発注を行い、その開発費用に支出したとする領収書を偽造していました。この開発費用の支出は、ソフトウェア仮勘定に計上していました。この処理により、現金が支出されたとして、帳簿残高と実残高の乖離の帳尻を合わせていました。

ソフトウェア開発を装ってシステム会社 F に送金【不正流出②】

知り合いのシステム開発会社との共謀

横領・背任事案では、よく出てくるのが外部の協力者です。会社からお金を不正支出させる受け皿となり、支出した一部を協力者が受領するパターンです。今回の調査においても、CFOは外部の協力してくれるシステム会社と共謀して、架空の取引を行い、CFOとシステム会社はお金を不正の受領していました。

CFOとシステム会社は、架空の取引であることの発覚を防ぐべく、AMNとシステム会社との間の「秘密保持契約書」「システム開発業務請負基本契約書」「業務請負個別契約書」「御請求書」「納品書 兼作業完了報告書」「納品書」などの書類を作成していました。システム開発の契約は、架空取引に非常によく使われます。やはり取引実態を把握しにくいのが悪用されるポイントです。今回もその典型ケースといえます。

その他の方法による資金流出【不正流出③】

さらに、驚いたのが、常勤監査役の関連企業を活用した資金流出パターンです。CFOは、コンサルティング会社Bへ人材紹介費用名目で約300万円を支出させ、その大部分を自らの支配する会社へ送金させています。このコンサルティング会社Bは、2019年1月からCFOの紹介により AMNの監査役 が取締役を務める会社であり、財務 コンサルティング事業や人材紹介事業を営む会社であったとのことです。この支出により監査役自身も一部手数料を得ています。
監査役も不正流出に関与しているのはかなり珍しいケースです。

原因は?

・CFOに対するけん制が全く機能していない
・経理部門の内部統制が全く機能していない
ことを主な要因としてあげています。
調査報告書の一部ですが、(一部、表現を修正しています)

①CFOの絶対的存在

CFOは、対象会社の財務の最高責任者(いわゆる CFO)という立場にあって、対象会社の管理部の最終決裁・承認権者である。また、組織内の権限のみならず対外的にも幅広い人脈を有しており、対象会社の株式上場にも貢献した立役者として、社内でも代表取締役と比肩して劣らないほどの絶対的な地位を有していた。
管理部の部員一同、取締役 CFOという立場を信用し、格別、CFOの行動を不審に思ったり、異議を述べたりするようなこともなかった。また、CFOは 2016年3月29日に取締役 CFO に就任した直後、前職 時代に自分の部下として経理業務や株式上場準備等を一緒に経験した従業員に声を掛け、同年4 月16 日に対象会社の経理・財務チームのメンバーとして採用した(なお、程なくしてマネージャーに昇格している。)。
CFOと 従業員Cの間には、前職時代から培われた堅実な師弟関係とも言うべき信頼関係があり、従業員CとしてもCFOに対して、上司としての尊敬の念と、自分を前職から拾って対象会社に引き抜いてくれたという恩義を強く感じ、加えて、もしCFOに嫌われたら職を失ってしまうという不安感も相まって、CFOの指示には絶対的・盲目的に従うという気運が醸成されていた。

第三者委員会の最終調査報告書公表及び役員報酬の減額に関するお知らせ(アジャイルメディア・ネットワーク株式会社)

不正流出のキーマンであった経理担当の従業員は、上記のようなCFOとの関係であり、会社の経理に関して、CFOの意のままに動かせる状態にあったようです。

CFOへのけん制機能不全

調査報告書によると、(一部表現変更しています)

対象会社においては、財務・会計面に関するチェックについて、前記のとおり対象会社内で絶対的な地位を有していたCFOに任せきりになっており、代表取締役を含め、対象会社の役員において、自ら積極的にCFO の行為を監督しようとする者は存在しなかった。 加えて、会計監査人によるチェックについても、監査法人とのコミュニケーションのほぼすべてを、CFOとその意を受けた従業員が行っていた。そのため、対象会社においては、取締役 A による監査法人に対する資料・ 事実の隠蔽や、監査法人からの指摘があった際の隠蔽が容易な環境が生じていた。

第三者委員会の最終調査報告書公表及び役員報酬の減額に関するお知らせ(アジャイルメディア・ネットワーク株式会社)

AMNでは、2019年6月、創業時からの代表取締役が退任し、新たな代表取締役が就任しています。そのため、上場時からCFOとしてAMNの金庫番を担っていた取締役に対して、新代表取締役としては、CFOに全てを任せっきりして、何も物を言えない状況に近かったのだと推察されます。

完全に人に任せることはマネジメントの放棄

今回のAMNのケースは、ケースとしてはかなり露骨な不正の事案だと感じます。CFOが自らすべて意のままにコントロールできる状態で、誰もそれを指摘しない、できない状態であったことに乗じて、小口現金を自由に支出している状況でした。「さすがにうちの会社ではここまでは」と感じておられる方が多いと思いますが、意外と部門の一部や子会社では、AMNと同じような環境が生じている場合があります。

結局、「誰もみていない」「誰も指摘しない」ルールや環境が、社内不正を招きます。特に、ベンチャー企業や中小企業では、社長がナンバー2に全て任せている、という会社を見かけます。そのような企業で起こりがちなのが、ナンバー2によるハラスメントが常態化しているのを、トップが見逃していた、というケースです。

トップがナンバー2に全て任せ始めると、トップには、会社の日常的な情報が遮断されます。なぜなら、ナンバー2がそのように仕向けるからです。ナンバー2は自分の好きに会社をマネジメントすることが非常に心地よい状態です。私が対応してきたケースでも、「ナンバー2のハラスメントの声が聞こえ始めた」ときは、会社が崩壊に近づいているサインでした。実際、私がトップからの相談を受けて、ハラスメントの調査をスタートすると、出てきたのが業者との癒着により、会社の資金の不正流出でした。多額の資金が流れており、帳簿も改ざんされている状態であり、簿外に多額の債務を抱えている状態にまで至っていました。
 今回の調査報告書をみると、やはり、健全なマネジメントは、「常に誰かに見られている」と感じさせることが大切だと感じさせられました。