Casa 第三者委員会調査報告書を読み解く 「文春報道から調査委員会の設置へ」

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週刊文春の報道が第三者委員会設置のきっかけ

きっかけは、週刊文春の報道です。20年12月3日、10日号において、「『サラリーマンは乞食』東証一部社長の役員5時間罵倒音声」と題するセンセーショナルな記事が報道されました。この記事の存在を重く受け止めた株式会社Casa(以下「C社」)では、当該記事の事実関係を客観的に調査するため、2020年12月7日、第三者委員会を設置することを決定しました。

C社は、家賃債務保証事業を展開しており、2020年1月期決算では、売上約94億円、経常利益約15億円、純利益約9億円を上げる東京証券取引所1部の上場企業です。

 最近、企業の不祥事、内部紛争など、企業のトラブルに関するあらゆる事象が週刊文春に持ち込まれる傾向があり、本件でも当該報道が調査のきっかけになったものです。

週刊文春に記事ネタが持ち込まれた経緯の詳細は不明ですが、社長と個人的にトラブルとなったA氏側の人物が、快く思わない社長に対する思いを伝えるべく、週刊文春に記事ネタを持ち込まれたことが推察されます。

この記事の掲載される直前は、株価が12月2日の時点において、1273円(終値)でしたが、同年12月11日の時点で、株価は1020円(終値)まで下落しています。調査報告書によると、A氏は、本件報道の1か月前の2020年11月10日、A氏が保有するC社株式のうち、10000株を市場で売却している、とのことです。

何を調査したのか?

問題となったトラブルの構図は、C社の代表取締役社長と、C社の元取締役であり、かつ、C社の子会社の代表取締役の地位にあったA氏の対立構造が報告書から明らかとされています。報道では、C社代表取締役がA氏に対し、以下の発言を行った、としています。

【反社会的勢力との関与を想起させる発言】

「来いよ、腕っぷし俺、自信があるから。来い来い!俺も輩は輩で何人もと付き合っとるから」

「ドス抜いた役員もおったけど俺を刺そうとはせんかったわ。やっちまったのお」

【内部統制上問題視された発言】

 「今、この会社における内部統制、判断基準は俺じゃ、ということだ。規定じゃない、俺なんだ。俺がすべてなんだ。でも俺でも判断間違えることあるだろうな。それでも、ここにいる社員の中で、俺より優れた判断ができる人間は一人もおらん。(中略)すべては私が判断基準です。くれぐれも、間違わないように」

第三者委員会では、

  • 代表取締役社長と反社会的勢力との関係の有無
  • A氏とのやり取りの事実関係
  • 代表取締役社長の役職員に対するパワーハラスメントの有無

を調査対象としています。

驚愕の社長とAとのバトル

第三者委員会では、代表取締役社長とA氏とのやり取りについて、以下のとおりの事実認定をしています。代表取締役社長とA氏は、2020年6月29日、話し合いの中、A氏が社長に暴力をふるう事態に至っているが、6月29日の出来事に至るまでの経緯をまず以下のとおり認定しています。

2020年6月29日に至るまでの事情

  • Aは、C社設立当初からのメンバーであり、営業部門担当の取締役であった。
  • Aは、役員として職責を果たす能力がなく、役員退任。子会社の代表取締役に就任。
  • Aは、子会社の代表取締役としても、会社のマネジメントをほぼ行っていなかった。
  • Aは、C社監査役会日足、「不正は行っていないものの、目に見えない実害を与えています」と自らの任務懈怠を認めていた。
  • Aは、2020年6月24日、C社の取締役会において、子会社の新システムリリース後の展望についての質問を受けた際、自ら内容を把握していなかったことから説明ができず、急遽部下が代わりに説明を行うという始末であった。
  • Aは、C社代表取締役社長に対し、経営者としての責任を問われたところ、「全ては自分が招いた責任です。年内に予算を達成します。もし達成できなければ責任をとって損害を補填します。もう一度チャンスをください」と述べた。
  • しかし、Aは、上記宣言後も、業務態度が変わることなく、部下や執行役員から、一緒に仕事ができない、進退を考えるように、など厳しい指摘を受けていた。

2020年6月29日の出来事

6月29日、社長は、A及び役員を役員室に集め、Aと話し合いの場を持った。
Aは、子会社の代表取締役の辞任およびC社の執行役員の辞任を申し出た。
社長が、Aに対し、辞任の理由を尋ねたところ、Aは、部下が一緒にやりたくないと言っているので、難しい旨の説明をした。
社長は、Aに対し、
「辞めるのは自由です。ただ、先日の取締役会で決意表明をされたばかりなのに、無責任じゃないんですか。会社に生じた損失を補填するという話はどうなるのか」旨述べた。
Aは、
「わからないので兄と弁護士に相談したい」旨述べた。
社長は、Aに対し、弁護士に相談するのは構わないが、A自身はどうしたいのか、というのを何度か尋ねた。
すると、Aは「弁護士に相談するのもいけないのか」と声を荒げた。
社長は、
「その態度が居直っとろうが」と述べたところ、
Aは、
「もううんざりなんだよ。腕力に自信があるんだよ。社長も腕っぷしに自信があるんでしょう。やりましょうよ」など言い、いきなり席を立ち、社長に駆け寄り暴行を働いたところ、周りの役員に取り押さえられた。
この後、社長は、
「来いよ、腕っぷし俺、自信があるから。来い来い!俺も輩は輩で何人もと付き合っとるから」
との発言をした。

その後、Aは、6月30日、C社を退職し、C社の競合会社に入社し、競合会社において、C社のネガティブキャンペーンを行っていた。
これに見かねた社長は、2020年8月、Aから暴行を受けたことを理由として、警察に対し被害届を提出した。

ハードマネジメントが抱えるリスク

第三者委員会は、最終的に、

  1. 社長は、反社会的勢力との関与は一切ない
  2. 内部統制上の問題発言については、内部統制上の問題は特段見られないが、ステークホルダーに対して誤解を生じさせかねない発言であり、今後留意する必要がある
  3. 社長の役職員に対するパワーハラスメントがあると認定できなかった。社長の言動も具体的な状況によって、パワーハラスメントに該当する可能性があるため、社長は、これまでの認識を改めることを要する。

と認定しています。
そのうえで、改善提案部分では、社長が認識を改めることを提言しています。
以下、第三者委員会の提言部分の引用です。

本件の再発防止策は、とにかく当社代表取締役がこれまでの認識を改めることに尽きる。
・・・これまでは多少乱暴は言動を必要であり、当社が上場するまでは、それも世間的に許されていた面もあるが、いまや東京証券取引所第一部に上場する企業である。
一部の従業員については、当社代表取締役による経営幹部らに対する強い口調による指導を好意的に受け止めているが、他方、不快に感じている従業員も存在している。指導内容がいくら合理的でも、その伝達手段(声の大きさや発言状況など)によっては、パワーハラスメントや不法行為と疑われることもあるということを認識しなければならない。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7196/tdnet/1939693/00.pdf

具体的にどのような認識を改めるべきかは明確ではないものの、本件報道や調査事実を含めて、代表取締役社長のマネジメント手法が適切ではないことを示唆しています。

 私自身、週刊文春がオンラインで開示している音声データを確認しましたが、一般的な感覚で行っても、代表取締役の発言手法や発言内容は、ドキッとする側面がありました。

 オーナー企業では、オーナー社長の強力なリーダーシップが、企業の成長力の源泉であることは確かです。一定程度は、ハードなマネジメントも、カリスマリーダーの場合は一定程度は許されるかもしれません。

 しかし、企業が急成長することにより、新しい人員も増えていきます。創業当初からのマネジメントが受け入れられるのは、古参のメンバーだけであり、新しい人員にとっては衝撃が走る可能性があります。  経営者の方々は、会社の成長に応じて、常に自らのマネジメント手法を自問自答しておられると思いますが、第三者の目をうまく生かして自らのマネジメントの軌道修正をする必要