「内部通報窓口担当者は重要かつ辛い立場であることをわかってほしい」
~ 今こそ見直すべき内部通報制度~

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1.改正ポイントのおさらい

このメディアでも一度解説しましたが、2022年6月から、公益通報者保護法が改正されます。簡単にいうと、2点の重たい改正ポイントがあります。

① 300名を超える従業者を抱える企業では内部通報窓口の設置が義務化

② 内部通報窓口担当者が通報者を特定される情報の守秘義務化

上場企業の場合、①の改正はそれほど影響がありません。なぜなら、基本的に上場企業の場合には内部通報窓口を設置している企業が多いからです。

特に重たいの②のほうです。

2.窓口担当者は刑事罰のリスクに晒される

内部通報窓口担当者は、通報者からの相談窓口を受け付けていますが、通報者が特定されるような情報については、厳格に守秘することが求められます。今回の改正では、当該守秘義務に違反した場合には刑事罰(30万円以下の罰金)が定められています

これは窓口担当者としては非常にプレッシャーがかかります。

3.窓口担当者が本当に大変であることを理解しよう

内部通報窓口担当は、従業員の方々から色んな悩みがぶつかってくる精神的に非常に厳しいポジションです。相談窓口に相談をしてくる相談者は、意を決して相談してくるので、皆さん必死で「何とかしてほしい」と訴えてきます。この相談に乗ること自体、非常に責任が重く、精神的負担が大きいのが実情です。

ある企業の方からこんな発言がありました。

社内の窓口で対応するのは、窓口担当者の負担が大きく、なおかつ、刑事罰のリスクを社員に背負わせるのはリスクが大きすぎる。社内窓口を廃止して、社外窓口だけにしようかと

「社内の窓口で対応するのは、窓口担当者の負担が大きく、なおかつ、刑事罰のリスクを社員に背負わせるのはリスクが大きすぎる。社外窓口だけにしようかと思う」

との相談がありました。その悩みは、「やはりそうなってしまいますよね~」と感じます。

4.社内窓口の重要性

今回の改正でさきほどの企業の方のような気持になってしまうのはわかります。

しかし、やはり内部通報制度は、企業内部で速やかに相談できる体制がベストです。相談者からの相談のハードルも低く、早期に会社の改善点を見出し、リスク管理上、大事に至らないためにも社内窓口の維持は非常に重要です。

社内窓口を維持しながら、公益通報者保護法の改正にどのように対応をしていくのか、このポイントを整理します。

5.これからの社内窓口の運営のポイント

⑴ 専任者と兼任者いずれを置くべきか?

 窓口業務のみを行う担当者を専任者、窓口業務と他の業務を行う担当者を兼任者としています。

 専任兼任
メリット・専門的知識を有している ・相談者が特定されない情報管理が適切に行われる・担当者が疲弊しにくい ・引継ぎをし易い
デメリット・担当者が疲弊する可能性 ・引継ぎが困難・相談者が特定されない情報管理上のリスクがある ・研修をしっかり行う必要あり

 私の印象では、専任担当者を置いている企業は少ない印象があります(客観的な数字がなくて申し訳ありません)。兼任している場合には、人事・労務部門や法務部門や総務部門やコンプライアンス部門などがご担当されていることが多いです。

窓口担当業務は、本当に重要かつ辛い業務ではあるので、専任担当者を置いたとしても、通常より短期の人事異動を行うほうが、担当者の疲弊するリスクは低くなると思います。日々、色んな方々からの悩みや不満を受け止めることは本当に大変であり、加えて、相談者の特定リスクが生じない配慮も必要であり、心身ともに疲れる業務であることから、専任者の厳しさを理解しておく必要があります。

⑵ 担当者の定期的な研修(超重要!!!)

 繰り返しになりますが、特に大切なのが「通報者(相談者)の特定」に繋がらないように調査を実施しなければならない点です。

 例えば、「営業担当の取締役が部下に暴言を吐いていてハラスメントがひどい」という相談があった場合、仮にハラスメントを行っている疑いがある役員に通報事実が伝わると通報者探しを行われる可能性が高まります。

 もちろん、調査の過程において、ハラスメントの疑いがある役員にヒアリングを実施する場面が生じます。その際には、通報者探しを行わないように注意喚起を行うこと、仮に通報者の特定するような行動に出た場合には、別の懲戒事案として厳しく処分を行う旨の通知を行う必要があります。

 窓口担当部門は、たとえ、代表取締役に対しても、通報者の特定に繋がる情報を開示しない、対応が必要になってきます。

 窓口の運用の肝を押さえてもらうためには、公益通報者保護法の知識を踏まえた研修を徹底する必要があります。

  

 担当者は、通報対象となった部門に対して、自ら調査を行うとともに、対象部門に調査の一部を補助してもらうことがあります。その場合には、調査補助をしてくれる方に対して、「通報者の特定」に繋がらない対応をしてもらうようにしっかりとケアをする必要があります。自らが情報管理をしていたとしても、調査補助の方が情報を漏らす可能性があることにも配慮する必要があるのです。

  このように、窓口及び調査の場合において、丁寧な対応を要求されることをしっかりと事前に研修を行うとともに、1年1回程度の研修を実施、気の緩みを防ぐ必要性があります。

⑶ 情報を共有する範囲をどの範囲にするのか定まっているのか

 内部通報があることにより調査が実行されます。当該調査につき、内部通報がきっかけであることの情報を共有することは内部通報制度を崩壊させる要因となりかねません。

  情報には2つの種類があります。

  ①通報内容に関する情報

  ②通報者の特定に繋がる情報

 例えば、①の情報については、窓口担当部署のメンバー以外には、コンプライアンス部長や人事部長に限定して情報開示を行う、など通報内容に関する情報を共有の範囲を明確に限定する必要があります。

 ②の通報者の特定情報についてはより慎重に取り扱うべきです。相談を受けた窓口担当部門のみに限る、という対応をとる手法もあります。①の情報、上記のコンプライアンス部長や人事部長に共有するが、②の情報は伝えない、という手法です。

 通報内容の調査にあたって、通報者の特定情報を伝達する特段意味がない場合も多く、その場合の通報者の特定情報をむやみ共有するのはリスクがあります。

⑷ 調査を実施する際、「通報者の特定」に繋がらない調査手法をとれているのか

 調査を実施するにあたっては、調査に協力してもらうべく関係部署や関係者と連携をとる必要があります。その際、通報者の特定に繋がる情報以外の通報内容を関係部署等に共有せざるを得ない場合があります。

 調査を協力する際には、必ず「通報者探し」「通報者の特定」は絶対に行わないことの注意喚起を口頭及びメールなどにより徹底して通達してください。

 またどうしても通報者の特定に繋がる情報を伝えて調査を行う必要がある場合もあります。その際には、絶対に「通報者特定」情報は漏洩しないことの誓約してもらう必要があります。

 その際には、「通報者特定情報を漏らした場合には、刑事罰になります(22年6月以降)」と通知し、しっかりと注意喚起を行うようにする必要があります。

⑸ 複数名若しくは外部専門家と検討し、調査方針を決定しているのか

 調査方針は一人では決めないでください。

調査方針は、

・通報者の保護

・対象者へのヒアリング、対象者から通報者への報復の可能性

・通報の存在が社内で噂になってしまう可能性

・通報者が特定されない調査の仕方

・通報者への確認事項

・調査の時間

・調査報告のタイミング(調査に時間を要する場合に通報者への途中経過を伝える)

など様々な考慮要素に基づき決定する必要があります。

どのような調査を実施するかなど、やはり担当者一人で決定すると考慮に漏れが生じます。

外部の専門家や社内の複数名と協議をして、慎重に調査方針を決定することを心がけてください。

最近では、社内窓口のサポートとして外部専門家である弁護士と連携することが多いです。社外窓口を弁護士に委託するのではなく、社内窓口のサポートに弁護士を活用することも有用です。  今回の公益通報者保護法が非常に重たい改正であることを改めて認識していただき、これからの社内窓口の適正かつ安心な運営を心がけていただければと思います。