吉野家役員解任騒動

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2022年4月19日、株式会社吉野家ホールディングスは、同社の執行役員であり、子会社の株式会社吉野家の取締役を不適切な発言があったとして、解任することを発表しました。時系列に整理すると、以下のとおり。

2022年04月16日
伊藤氏 早稲田大学主催社会人向け「デジタル時代の総合マーケティング」講座で講義
「生娘をシャブ漬けにする戦略」
「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢・生娘な内に牛丼中毒にする。男に高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない」という趣旨の発言
2022年04月16日
受講生が受講後、運営側(早稲田大学)に強く抗議。これを受けて運営側が謝罪。
受講生ツイッターで、発言内容および怒りを発信
2022年04月17日
ツイッターから拡散し、伊藤氏の発言が炎上
2022年04月18日
吉野家、伊藤氏の不適切発言に対して謝罪をリリース

以下、謝罪文の一部を抜粋

株式会社吉野家常務取締役企画本部長が、4月16日に開催された外部における社会人向け講座にて講師として登壇した際に、不適切な発言をしたことで、講座受講者と主催者の皆様、吉野家をご愛用いただいているお客様に対して多大なるご迷惑とご不快な思いをさせたことに対し、深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。当該役員が講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません。当人も、発言内容および皆様にご迷惑とご不快な思いをさせたことに深く反省し、主催者側へは講座開催翌日に書面にて反省の意と謝罪をお伝えし、改めて対面にて謝罪予定です。

当社役員の不適切発言についてのお詫び(株式会社吉野家)https://www.yoshinoya-holdings.com/file/20220418_apology.pdf

2022年04月19日
吉野家HD 取締役会を開催

伊藤氏の同社の執行役員、及び株式会社吉野家の取締役の解任を決議

解任理由

同氏は人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があったため、2022年4月18日付で同氏を当社執行役員および株式会社吉野家取締役から解任しました

当社役員の解任に関するお知らせ(株式会社吉野家)https://www.yoshinoya.com/wp-content/uploads/2022/04/19113244/news20220419.pdf

2022年04月19日
吉野家HD 代表取締役の役員報酬の減額 リリース
代表取締役の固定報酬の30%を3か月間 減額

サービス精神が招くリスク

今回の役員は、早稲田大学の講義での発言です。私もセミナーを行うことが多いのですが、セミナーでは、聴講されている方々に興味をもってもらうために、何かに例えた踏み込んだ発言をすることがあります。講義が有料で開催されている場合、講師としては、クローズな場と思い込み、「この場であれば、これぐらい発言してもいいよね」というテンションになりがちです。今回の不適切発言は、一線を越えた非常に不快な思いをする発言ですが、当該役員の方も、クローズな場で、講義を盛り上げるサービス精神から出た失言のように感じます。私自身、リスクマネジメントの講義を行う際、そのまま話をすると面白くない、という不安感に駆られることがあります。改めて、発言の仕方に注意をしなければならない、と自戒するきっかけにもなりました。

商品・サービス、お客様に対する「愛」のない発言

今回の発言の不適切さは、やはり一切の「愛」を感じないところにあると思います。
「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢・生娘」という言葉には、お客様に対する「愛」が一切ない、むしろ、都会が田舎より優位、若い女性を馬鹿にしている、との非常に不快な印象を与えるものです。
「男に高い飯を奢って貰えるようになれば」の発言は、ジェンダーの観点からは全く許容できない、の一言につきます。
こうした発言の背景として、役員の方に自社の商品に対する「愛」のなさを感じます。私が一緒に仕事をする企業の方々には、自社の商品・サービスをより良いものにして、お客様に喜んでもらおう、という姿勢を常に感じます。もちろん、他社の商品・サービスとの差がなく優位性がない場合には、価格やマーケティング戦略が大切になってきます。
しかし、今回の役員の方は、発言内容から見て、お客様も馬鹿にして、自社の商品を「シャブ漬け」の道具としかとらえておらず、本当に自社の牛丼・親子丼などの商品に「愛」を感じることができません。
商品・サービス・お客様に対する「愛」を常に持ち続けることの大切さを改めて実感しました。

吉野家HDの素早い対応

今回、吉野家HDの動きは目を見張るものがありました。4月16日の発言と騒動を非常に重く受け止め、2日後の謝罪をすぐに発表するとともに、3日後の4月19日には、役員の解任の発表まで動きました。
吉野家HDは、吉野家、はなまる、京樽などの飲食事業を展開するとともに、日本だけではなく、アジア、アメリカ、オセアニア地域などグローバルに店舗展開をしている企業です。
「ビジネスと人権」の重要性が唱えられており、グローバル企業においては、サプライチェーンの人権侵害が発生していないのか、という調査を行う人権デューデリジェンスのニーズも高まってきています。
吉野家HDはグローバル企業であり、この役員の方の発言は、日本国内だけでなく、人権意識の高い海外の事業にも多大なる悪影響を及ぼすことから、一気に事態の収束を図ったのだと推察しています。
吉野家HDのリリースの一部には、
「当該役員が講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません。」と非常に強いメッセージで、この発言の不適切さを強調しています。
BtoCのビジネスを展開している企業では、このお客様蔑視の発言は非常に思いものです。仮に、この発言が社外ではなく、社内で行われた場合、それは「モラルハラスメント・セクシャルハラスメント」に該当しうる発言です。社内で発言したとしても、この発言は周りを不快にさせるものであり、非常に危険な発言です。
吉野家HDにおいても、再発防止策として、5月にはコンプライアンス研修を実施し、改めて人権・ジェンダーの意識向上を図るとのことです。

今回の不適切発言問題、誰もが大なり小なり行う可能性があり、私自身も自戒の念を込めてこの問題を取り上げてみました。