米国で起こったSPACを通じた上場会社における受注水増し疑惑

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EVメーカー 米ローズタウン・モーターズによる受注水増し疑惑

電気自動車(EV)メーカーである米ローズタウン・モーターズ(ローズタウン社)は、3月12日に開示したEVの1月の予約台数が「10万台超」公表しています。しかし、開示内容に疑義があると一部の投資会社が発表しています。

その理由として、①自動車の14000台の受注がテキサス州の小さなアパートを拠点する会社であり、車両を有していない会社であること、②1000台を予約注文したとされる新興企業のオーナーは実際には車両を購入する意思はなく、付き合いで予約したのみであること、という証言が元になっています。

背景として、米国の各電気自動車メーカーは、中期の生産・販売計画が非常に強気であり、ローズタウン社も競合との競争との観点から、強気の成長計画を立てており、実績としての注文台数の数字を示し、成長戦略に信ぴょう性を与えるために、このような架空受注実績を示したのではないか、と言われています。

SPACの行方

米国では、SPAC(特別買収目的会社)の上場が認められています。日本でもSPACの解禁が議論されているようです。SPACは、いわゆる「空箱企業」であり、上場時に株式市場から資金を調達し、2年以内に未上場企業を買収・合併するのを目的とした会社です。

コロナ禍によりSPAC上場の動きが加速している米国では、2021年3月12日までに、調査会社のディールロジックによると2021年に新規上場したSPACは12日までに252社となり、過去最多だった昨年年間(248社)を早くも上回っています。米国の新規株式公開(IPO)の8割近くを占めている状況です。

参考記事:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD00009_W1A310C2000000/

SPAC上場とは、すごく雑な言い方をすると、ベンチャーキャピタル(VC)自体が上場し、その会社が買収した会社を通じた上場、というイメージです(少しわかりにくいですかね)。

実際、ソフトバンクや楽天などは、多くのベンチャー企業に投資を行っており、このような会社がSPACを設立し、上場するということなると思われます。

SPACは、メリットとしては、これまで単独で新規上場を果たすとすると、最低でも5年程度の時間を要するところ、SPACを通じた上場の場合には、すでにSPACが上場していることから、対象となるベンチャー企業が市場からお金を集めることが短期間で可能となることにあります。

日本での解禁が議論されていますが、やはり難しいのが、SPAC自体の審査とSPACが投資をする会社自体に対する審査をどのように行うのか、という点です。SPACを通じて上場することにより、対象ベンチャー企業の審査が緩い状態で果たして市場としての信用性を保てるのか、というのが悩ましいところです。

先のローズタウン社のケースもまさしく、SPACを通じて2020年に上場を果たした企業であり、ローズタウン社の水増し受注疑惑のような事象が発生しうることがリスクとして考えられます。

東京証券取引所が発表した「グロース」市場上場企業に要求される開示

21年2月、東京証券取引所は、「グロース市場における 『事業計画及び成長可能性に関する事項』の開示について』と題する資料を開示しています。

 簡単にいうと、グロースへ上場する企業には、「事業計画及び成長可能性に関する事項」を年に1度以上、開示を義務付けるものです。

 この規制は、投資家の合理的な投資判断を促すことを趣旨としています。

 この開示で特に重視されており、かつ、作成が難しいのが、「成長可能性に関する事項」です。

 特に以下の3つの事項は、特に慎重な開示が必要とされますし、自社の株価形成に多大な影響を及ぼすポイントです。

【ビジネスモデル】

事業の内容:製商品・サービスの内容・特徴、事業ごとの寄与度、今後必要となる許認可等の内容やプロセス
収益構造:収益・費用構造、キャッシュフロー獲得の流れ、収益構造に重要な影響与える条件が定められている契約内容

 【市場環境】

市場規模:具体的な市場(顧客の種別、地域等)の内容及び規模
競合環境:競合の内容、自社のポジショニング、シェア等 競争力の源泉

【競争優位性】

成長ドライバーとなる技術・知的財産、ビジネスモデル、ノウハウ、ブランド、人材等

これらの開示は、自社の成長可能性を示せないのであれば、「上場を継続していただく必要はありませんよ。」というメッセージが強く込められたものです。

 「成長可能性に関する事項」の開示は、自社の株価が低迷している企業にとっては、米国のローズタウン社のように、実態と異なる成長可能性を示すことを引き起こす可能性もあり得ます。

これからIPOを目指す企業にとっては、上場がゴールではなく、上場を継続し、企業が持続的に成長する可能性を常に示さなければならない、ということを改めて実感させられる動きと感じています。