以前、本サイトで解説した、はま寿司の社長がかっぱ寿司への転籍した際、はま寿司のデータを複数回にわたって漏洩した事件として、家宅捜索を受けていたことをご紹介しました。あれから約1年3か月、ついに、かっぱ寿司(株式会社カッパクリエイト)の社長と社員の2名が不正競争防止法違反により逮捕されるに至りました。現役の上場企業の社長が在任中に逮捕される、という極めて珍しいケースです。株式会社カッパクリエイトは、東証プライム上場企業であるとともに、株式会社コロワイドの子会社です。
経済事件は告訴から逮捕まで時間がかかる
私自身、営業秘密を持ち出す不正競争防止法違反で、刑事告訴のサポートをしたことはありませんが、役職員が業務上横領罪や背任罪などの疑いがあり、刑事告訴の対応をしたことがあります。実際に、警察に相談をしてから、捜査機関が本格的に捜査に着手し、刑事立件にまでに至るには本当に時間がかかります。暴行、傷害罪などの個人の被害者の事件は、捜査機関は結構、すぐに動いてくれますが、経済事犯のときには、私の経験上、時間がかかります。長い案件では、私が捜査機関に相談してから逮捕されるまで2年以上かかったケースもありました。
その要因は2点あると思っています。
(1)証拠集めに苦労する
捜査機関はやはり十分な証拠がないと動いてくれません。捜査機関が動いてくれたら、証拠が集まる、と考えることはやめた方が良いでしょう。今回の不正競争防止法違反では、「営業秘密」に該当するのか、不正の目的があるのか、持ち出した事実関係など立証ポイントが複数あります。今回の事件は、自社の中だけではなく、相手方企業でどのように情報が扱われていたのか、という点も問題になるので、自社だけの証拠集めでは限界があります。
最終的には捜査機関により相手方企業での捜査も必要になります。相手方企業での捜査に着手してもらうためには、自社側で十分な証拠をそろえておかないと、やはり捜査機関は動いてくれません。
私は横領事案を対応したことがありますが、横領犯の口座を調べてくれたいいのに、と思いながらも、会社側で横領された事実を一つ一つ積み上げていく必要があり、それを捜査機関側と丁寧に連携しながら相談をして、ようやく本格的な捜査が始まりました。
(2)被害者が企業だと緊急性が低い
やはり企業が被害者だと、捜査機関は少し落ち着いて検討する傾向があります。個人が被害者の事案とは異なり、緊急性という観点で少し動きが遅くても、という気持ちはわかります。また、企業が被害者の場合には、民事の損害賠償請求で片を付ければ、という思いもあるのかもしれません(私の推測にすぎません)。実際、被害企業が民事で損害賠償請求をとるために、刑事事件化させようという意図があると、捜査機関は途端にテンションが下がります。民事で損害賠償請求できるかどうかは関係なく、とにかく制裁を与えてほしい、処罰感情が高いケースであることが刑事立件に至るポイントかもしれません。
今回のはま寿司側も民事の損害賠償請求は行っていないことからも、民事を動かすための捜査機関への相談、という形式をとらなかったことから立件にまで至っているとはいえます。とはいえ、実際に、はま寿司側としては、民事の損害賠償請求をしようと思っても、その損害が何なのか、という点で難しく、民事裁判をするのは極めて難しいケースです。
社長の辞任について遅すぎなかったのか?
今回のケース、プライム上場企業の現役社長が、在任中に逮捕される、というケースです。
2022年9月30日に逮捕されて、当該社長が取締役を辞任したのは10月3日です。逮捕された後に、取締役を辞任しています。
しかも、1年以上まえから、カッパ・クリエイト側は家宅捜索もされており、突如逮捕されたケースではありません。
やはり「なぜ逮捕される前に辞任しなかったのだろう?」という疑問点が出てきます。
逮捕前に捜査機関は「逮捕するよ」というは言ってくれません。なぜなら、逮捕は、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがある場合に逮捕するからです。事前に「逮捕するよ」というと、証拠を隠滅されたり、酷いケースは逃亡します。今回のケースは、推測ですが、逮捕された社長は被疑事実を否認していると思います。そうなると、逮捕理由は、証拠隠滅を防ぐためです。したがって、事前に社長が逮捕されるタイミングはわからないのが実情です。
ただ、会社として、捜査機関側に現在の捜査状況を確認したり、立件の可能性を探るために何かしらの動きはしていたのだと思います。やはり、社長がいきなり逮捕、というのは極力避けたいから、何とか探りを入れていたのだと思いますが、全く情報を得られなかったのでしょうか。この点は何ともわからない部分です。
私がこの会社の社外役員だったら、どのように取締役会で意見を述べていただろう?と思わず考えてしまいます。
「社長は容疑を否認している」
「容疑を否認しているのに、先んじて辞任するのはおかしい」
「辞任すると、かえって容疑を認めたと思われる」
「とはいえ、万が一逮捕されたら、会社が混乱する」
この堂々巡りの議論の中で、会社にとって何がベストなのかを検討するのは難しいです。
一つ先手を打つとしたら、中立性を有する第三者により、今回の事案につき、社内調査委員会を設置し、調査を実施し、その中で、事実関係の精査とともに、立件可能性を検討してもらいます。それにより、社長の万が一の逮捕に備え、次期社長候補を取締役に予め就任させる、ことかな~~と外側から見ている無責任な考えを巡らせています。
本件は「早く社長を辞めさせるべきだったのでは?」と軽々にはいえないケースとして、私の頭の中のシミュレーションを行ってみたいと思います。難しいケースです。いや~正解はないケースです。