出前館 調査委員会報告書を読み解く 「不適切会計処理による、異例の「継続会」の開催へ」

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株式会社出前館は、2021年11月30日、外部の専門家を加えた社内調査委員会を設置しました。その後、12月28日、同委員会による調査報告書(要約版)を公表しています。出前館は、8月決算の会社であることから、11月に定時株主総会が開催されます。しかし、今回、監査法人の指摘により、債権債務の残高についての誤りがあることが判明しました。そのため、出前館では、定時株主総会において、事業報告や計算書類の報告ができない状況になったことから、定時株主総会は開催するものの、後日継続して審議を行う「継続会」の開催という異例の事態に至りました。
今回の社内調査委員会の調査は、監査法人からの指摘を受けた会計上の誤りについての調査を行ったものです。

急速に成長している出前館のビジネス

出前館は、旧商号は「夢の街創造委員会株式会社」でしたが、2019年11月に「株式会社出前館」に変更しています。出前館は、CMでも大々的にPRしているとおり、フードデリバリーのポータルサイト「出前館」を運営している会社です。現在、LINE株式会社が筆頭株主であり、LINEの親会社であるZホールディングスのグループに属する企業です。

2021年8月期は、前年比約3倍の290億800万円と大幅に売上を伸ばしています。コロナ禍の在宅勤務、外食自粛で急速に市場が拡大していることからも成長を加速しています。出前館は、市場のシェアを獲得すべく、積極的に宣伝広告や配達員確保などの先行投資を行っており、そのため、経常利益は191億円の赤字です。ウーバーイーツなどの競合とのシェア争いに勝つべく、Zホールディングスからも資金調達を受け、積極的に投資し成長を続けています。その中、12月28日、調査報告書の公表とともに、新市場区分として「スタンダード」を選択することの発表も行っています。

何を調査したのか?

今回の出前館の社内調査委員会が調査対象としたのは、
●未収入金(資産)・未払金(負債)の誤った金額の確定
●外注費(配達代行委託業者への支払い)の精査
を中心とするものでした。
結論として、意図的な不正ではなく、会計処理上の誤りでした。
2020年8月期の有価証券報告書と四半期報告書の訂正を行っています。

何が問題だったのか?

⑴ 決済代行会社2社に対する未収入金の過大計上

 この会計処理が最も影響額が大きいのですが、調査報告書によると、

「出前館」のキャッシュレス決済を代行する決済代行会社2 社に対する未収入金の過大計上が確認された。
当社は、1社とは 2015 年 4 月より、もう 1 社とは 2018 年 9 月より決済代行に関 する取引をそれぞれ開始し、配達日を基準としてそれら決済代行会社 2 社に対する未収入金を資産計上していた。
入金のタイミングについては当社と各決済代行会社との決済条件により異なるところ、当社の決済代行会社に対する未収入金の回収サイクルは、基本的には月末締めで翌月の回収となるが、それら 2 社に限っては、より短期間で締める回収サイクルが合意されていた。したがって、それら 2 社との関係では、締め日と入金日の回収サイクルから当社がある月に計上する未収入金の一部は当月末までには回収済みとなるにもかかわらず、当社の財務経理グループでは、当月に回収された金額を考慮せず月次調整処理を行っていた。 その結果、決済代行会社 2 社に対する未収入金が過大計上されるとともに、その 相手勘定である未払金も過大計上された。

するに、決済代行会社2社から決済金の回収を実際に行った日よりも遅い日に経理処理をしていたことから、未収入金の計上が過大に行われていた、ということです。

⑵ 消費税処理の誤りによる配達代行委託業者に対する外注費の過少計上

もう一点、大きな誤りは、調査報告書によると、

2020 年 9 月から同年12月までの間、経理支援システムから会計システムへの自動仕訳連携の体制の構築を進めるとともに、手仕訳で配達代行委託業者に対する外注費の未払計上を行った。
しかし、この手仕訳による外注費の未払計上の際、本来は税込金額で計上すべき未払金額が税抜金額で計上され、外注費、仮払消費税及び未払金がそれぞれ過少計上された。
そして、こうした誤った消費税処理の設定を前提にして経理支援システムから会計システムへの自動仕訳連携の体制が構築された結果、2021年1月以降も同様の誤った会計処理が継続された。 2021 年 8 月期における外注費の過少計上額は 245,282 千円(税抜)であり、一方 2021 年 8 月末における未払金の過少計上額は 269,810 千円(税込)であった。

要するに、手仕訳による計上時に、税込で計上すべきところを、税抜で計上してしまい、過小に計上が行われていた、ということです。このミスについては、経理担当者が「税込」と事業部門から聞いており、契約書などの確認を行わずに過少計上してしまっていた、ということが原因でした。調査報告書では、その他、多くの点で計上の誤りがあった点の指摘をしていますが、メインは上記の点でした。

5.原因は?

このような会計処理の誤りは何が原因だったのか?

調査報告書では、出前館の経理業務の特徴について、以下のように指摘しています。

出前館事業は急速に拡大するなかで加盟店が増加するとともに、キャッシュレス決済や 配達代行の導入といったサービスの拡充により決済代行会社や配達代行委託業者との取引も加わって取引量が極めて多く、各取引先との間で決済条件も異なり、当社と取引先の債権債務の認識時期も異なることなどから、財務経理グループの業務は、極めて複雑で手間を要するものとなっていた。
こうした状況のなか、2017 年 12 月から 2021 年 3 月までの間は、財務経理グルー プの上長2名に実務面も含めた各種の業務が集中して両名が相互牽制を行いながら財務経理グループの業務を牽引していたが、取引量の増大等により次第に両名による相互牽制は難しくなり、他のメンバーに対する十分な指導監督を行う余裕もない状況が産まれていた。
しかし、両名が自己の職責を怠っていたような形跡はなく、与えられた人員やシステム体制のなかで最善を尽くして対応していたように見受けられる。
他方、経営サイドも内部監査室の監査結果などにより財務経理グループの業務の特徴や課題を理解した上、両名ともコミュニケーションを取りながら人員の増強やシステムの強化に向けた対応を行っており、新規採用を拒み、あるいは財務経理グループの問題を認識しながら漫然と放置していたといった事情も見当たらない。
しかし、当社は、出前館事業の急拡大に伴う会計処理の大量化・複雑化に対するリスクを十分に認識しておらず、リスクに応じた体制整備が遅れて未収入金・未払金等の会計処理を適切に行うための業務プロセスの問題が未対応のまま業務が継続された結果、本件誤謬の発生に至ったと考えられる。

このように、業務が急拡大したことにより、経理業務の大量化および複雑化した結果、従前の経理処理では対応しきれないことにより生じうる会計処理の誤りの可能性に対する認識が甘かったことが前提として指摘されています。
各論としては、

① 業務マニュアルの未整備
未収入金が入金されているにもかかわらず、残高を確認せずに未収入金として、そのまま計上してしまう、という業務プロセスについてのルールがなかった。
② 未収入金、未払金、代理店報酬の不十分な管理
未収入金の回収実績の把握、分析ができない状況であったこと
相手先別の区別なく計上する「どんぶり勘定」状態であったこと
③ 財務経理グループにおける不十分なチェック体制
上長2名が業務過多となり、両名のけん制がきかない状態であったこと
業務マニュアルがないなか、過去の決算仕訳を参照にして対応しており、誤りを発見しにくい状況であったこと
契約書類などのエビデンスを確認していなかったこと
④ 財務経理グループにおける未収入金の会計処理に関する理解不足
財務経理グループのメンバーが、会計処理の本質的な理解が不足していたこと

を挙げています。

監査法人も全ての会計処理をチェックできるわけではない

急速に成長するベンチャー企業あるあるですが、自社の財務経理部門の人員は、必ず人手不足になります。人手を何とか集めたとしても、IPO準備を控えている会社の場合には、将来の開示に耐えられる財務・経理の知識を有する人員がいなければ、どんぶり勘定の財務・経理処理になりかねません。

IPO準備をしている会社の場合には、N―2期の段階で監査法人と監査契約を締結し、その時点から一定程度の財務・経理に対するアドバイスを得ることができます。しかし、監査法人側も急速に拡大している企業の全ての経理処理に目を届かすことができません。経営陣としては、自社のビジネス実態に応じた会計をできているのか、という点について、社内にしっかりとした会計知識を有する人員を備えておく必要があります。財務のエキスパートであったとしても、会計や税務に対する知識が不十分な場合があります。特に、上場準備にあたっては、会計の専門家(公認会計士)などの人員を社内に置き、自社の会計処理の適正性をチェックできる体制を構築する必要があります。

よく聞くのが、「監査法人がもっと早く指摘してくれたらいいのに」という言葉です。

IPO前もIPO後も会計処理が不適切な場合には、上場ストップ、上場廃止になりかねない事態を招きます。常に、自社の会計処理は大丈夫なのか、という視点を持ってくれる専門家を置くことを心がけていただければと思います。

今回の出前館では、不適切な会計処理の結果、定時株主総会での計算書類等の報告が不可能となり、継続会を開く必要が生じています。このように株主総会を2回開くことは、総会開催のコストが数千万円アップすることにもなり、この意味でも会社には大きなダメージが生じますね。