アクアライン 第三者委員会調査報告書を読み解く 「特商法違反 9か月間の業務停止」

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アクアライン株式会社(以下「A社」といいます)は、2021年8月31日、消費者庁から、特定商取引法違反による9か月間(21年8月31日~22年5月30日)もの業務停止命令を受けました。9か月の業務停止命令は、消費者庁がA社の特商法違反行為を非常に重く受け止めていることが見受けられます。本件処分後、消費者庁の処分対象とした事案と同種の不正案件がないかどうかを、中立的な第三者である外部専門家による調査を行う必要が生じたことから、第三者委員会が設置されました。(第三者委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ

どんな不正だったのか(特商法(訪問販売)違反)

【アクアラインのビジネス】
A社は、水回りの緊急修理サービス事業を行っています。24時間365日、修理依頼を受け付け、全国で「水道本舗」の屋号で事業展開しています。その他、広告メディア、ミネラルウォーター、フィットネス事業も行っていますが、今回問題となったのは水回りの緊急修理サービス事業です。
A社の緊急修理サービス事業は、顧客に水のトラブルが発生し、顧客からの連絡により、修理を受注します。この修理のみでは、特商法の適用はありません。しかし、この修理サービスを超える器具の交換などの追加作業には、特商法の規制する訪問販売に該当し、特商法の適用が生じます。
実際、A社の緊急修理サービスのうち、訪問販売に該当する追加作業の売上は、同サービスの売上全体の7割にも至っていました。すなわち、追加作業の売上依存度が高いビジネスであったということです。
追加作業への依存度が高いのは、サービスを行う従業員への給与制度に理由があります。
調査報告書によると、

サービススタッフの給与額に大きく影響するのは、能力給であり、能力給とは、単純化すると、サービススタッフ個人の 1か月の総売上から材料費や作業月分値引額を差し引いた純売上をもとに、純売上の 120 万円を超え 180 万円以下の金額の 10%、180万円を超える金額の 20%をそれぞれ歩合支給するものである。
アクアラインでは、サービススタッフの入社当初の研修時からこの能力給を得られるように指導し、その後の●●ミーティングにおいても、如何にして能力給を得ていくかの指導が大きなウェイトを占めていた。サービススタッフにとっても、給与額に直結する能力給をいかに獲得するかが重要であった。

第三者委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ(アクアライン株式会社)

このように、サービススタッフとしては、いかに追加作業の依頼を顧客から受けるか、ということにより、自らの給与に大きな差が出る仕組みだったのです。

【不正の内容】
この仕組みの中、サービススタッフは何とか自らの売上を上げるべく、顧客に対して追加作業の提案をします。特商法により訪問販売に該当する場合には、消費者にはクーリングオフという制度が認められています。クーリングオフとは、消費者が契約の申込みや契約締結したとしても、8日間以内であれば申し込みの撤回や解除ができる、という制度です。今回の処分では、顧客がクーリングオフをしないように虚偽の説明をする(不実の告知)が対象事実として挙げられています。

具体的には、
【クーリングオフができるのに、できないかのように伝える】

クーリング・オフを申し出た消費者に対し、
「材料はすでに発注済みなので、材料費だけでも払ってもらえませんか。」、
「では、材料費はいりません。でも、カランのお金は払ってもらいます。」、
「見積書の裏にクーリング・オフができないと書いてるやろ。ちゃんと読んでもらってますか。」、
「消費生活センターに相談してもかめへん。クーリング・オフができないことに変わりは ない。」
「私の誠意はどうなるんですか。」
「うちには、クーリング・オフはありません。」
「これからお宅に行かせてもらおか。」などと、
あたかもクーリング・オフすることができないかのように告げた。

消費者庁2021年8月30日の行政処分リリース https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_transaction_cms203_210831_01.pdf

さらに、他の事案では、
【虚偽の事実を伝えて、契約を締結させる】

実際には、勧誘の相手方である消費者宅のトイレの不具合を修繕するための部品の製造は終了しておらず、必ずしもその修繕のためにトイレ一式を取り替える必要がないに もかかわらず、当該消費者に対し、
「水の流れが悪くなっているのは、電気 系統の部品の故障が原因ですね。」
「このトイレは、10年以上前のトイレ で、製造中止になっています。交換部品があるかどうかを、これから確認します。」
「部品は製造終了していて、在庫もないので修理はできません。トイレ一式を全部交換するしかないですね。トイレ一式を交換するのであれば、先ほどの便器脱着工事の代金はいただきません。」などと、
あたかも 当該消費者宅のトイレの不具合を修繕するための部品の製造が終了してお り、その修繕のためにトイレ一式を取り替える必要があるかのように告げた。

消費者庁2021年8月30日の行政処分リリース https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_transaction_cms203_210831_01.pdf

さらに、他の事案では、
【虚偽の事実を伝えて、契約を締結させる】

実際には、勧誘の相手方である消費者宅のトイレの不具合を修繕するための部品の製造は終了しておらず、必ずしもその修繕のためにトイレ一式を取り替える必要がないに もかかわらず、当該消費者に対し、
「水の流れが悪くなっているのは、電気 系統の部品の故障が原因ですね。」
「このトイレは、10年以上前のトイレ で、製造中止になっています。交換部品があるかどうかを、これから確認します。」
「部品は製造終了していて、在庫もないので修理はできません。トイレ一式を全部交換するしかないですね。トイレ一式を交換するのであれば、先ほどの便器脱着工事の代金はいただきません。」などと、
あたかも 当該消費者宅のトイレの不具合を修繕するための部品の製造が終了してお り、その修繕のためにトイレ一式を取り替える必要があるかのように告げた。

消費者庁2021年8月30日の行政処分リリース https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_transaction_cms203_210831_01.pdf

などの顧客対応が行われていたのです。顧客に虚偽の事実を告げて、契約締結や契約を解除できないようにするのは、悪質な特商法違反の行為です。

調査報告書によると、以下のような特商法違反が確認された、と指摘しています。


【A社のクレームの数】
調査報告書によると、A社での顧客からのクレーム件数を示しています。
消費者生活センター案件と重要クレーム案件の年間合計数と月間平均数は、以下のとおり。


消費者生活センターへのクレームが月平均2.3件、とされています。

消費者庁が公表した2021年7月時点での、水道屋本舗の相談件数は、

件数
2018年109件
2019年206件
2020年255件
2021年137件

とされています。
取引件数との比較はしていませんが、やはり、消費者庁からすると、これほどの件数のクレームが入っている会社を見過ごすことはできません。

原因は?

調査報告書によると、
・トラブルが起きやすいビジネスモデルに対するリスク認識不十分
・規制機関からの規制リスクの認識が不十分
・経営陣の上場会社としての自覚・コンプライアンス意識の希薄さ
・給与体系を含む人事制度が特商法違反を誘発しやすい
など、A社のガバナンス全体について、不正が発生した原因を指摘しています。

その中でも、不十分な取締役会の監督であったとして、以下を調査報告書では指摘しています。

水まわり緊急修理サービス事業に内在する従業員の法令違反又はそのおそれのリスクが あるにもかかわらず、2016 年1月13 日に開催されたアクアライン取締役会において、2015 年消費者庁通知書を受領したことについて報告がなされたものの、2015 年消費者庁通知書 の内容の紹介にとどまっており、当該取締役会において、2015 年消費者庁通知書を踏まえた具体的な対応等についての議論はなされなかった。
しかも、それ以後、アクアライン取締役会において、2021 年 2 月 19 日に、同年 1 月 21 日の消費者庁立入検査についての報告等がなされるまで、特商法に関する報告等がなされることはなかったのであって、
水まわり緊急修理サービス事業に内在する従業員の法令違反又はそのおそれのリスクがあることに鑑みれば、サービスマナー・コンプライアンス向上委員会に一部の役員が出席していたことをもって十分といえないことは明らかであり、従業員の法令違反又はそのおそれに対する取 締役ひいては取締役会の監督が不十分であったと言わざるを得ない。

第三者委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ(アクアライン株式会社)

これほどのクレーム件数や消費者生活センターへのクレーム状況があったにもかかわらず、これを取締役会や監査役会にて、議論がなされていなかった、という点は企業としてリスク管理体制を十分に備えていない、と言われても仕方ないのかもしれません。

取締役会・監査役会での議論をしないと善管注意義務違反へ

昨今のIPOを上場準備している会社では、取締役会とは別の任意の機関として、リスク管理委員会やコンプライアンス委員会の設置を求められることが一般化しています。新しいビジネスモデルやM&Aにより拡大しているステージでは、当該ビジネスにおけるリスク管理を徹底しないと、上場にまで辿り着けない可能性があります。

また既に上場企業している企業においては、会社として認識した不正やトラブル事象を、取締役会で議論を行い、必要がある場合には、自ら第三者委員会を設置し、自らの襟を正す対応を求められます。

取締役会、監査役会のメンバーとしては、自社のビジネスが抱える問題点を認識し、その問題点の原因究明、再発防止を行う姿勢を示さないと、役員として善管注意義務違反に問われ、場合によっては、役員が損害賠償責任を負う可能性もあります。

役員は、常に、自社のビジネス状況を把握するとともに、リスク管理委員会で議論や報告事項の共有を受け、事業リスクに対する対応策を検討する必要があることが求められます。

今回のケースでは、事業部門が社内で圧倒的に強く、事業部門の暴走をとめる機能が全く果せていない事象です。自社において、事業部サイドの力が強すぎないか、管理部門によるチェック機能があるのか、この視点を持って、日々のマネジメントを心掛けていただきたいと思います。