コロナでカスハラが増えている?会社がとるべき対応策

Images by iStock

コロナ禍で、顧客からの度を越えたクレーム行為などのいわゆる「カスハラ」が問題になるケースが増えています。この「カスハラ」行為を従業員が受けた場合、企業が責任を負う可能性もあるため、社内で対応方針を策定しておく必要があります。本記事では、「カスハラ」行為に対して会社がとるべき対策についてのポイントを解説します。

【カスハラとは?】

「カスハラ」とは、企業などに対する理不尽なクレーム、度を越した要求、暴言や暴行などのカスタマー(顧客、消費者、利用者など)によるハラスメント行為のことを言います。このカスハラは、近年、社会問題となっています。

【カスハラが起こる場面と態様】

厚生労働省の最近の調査では、過去 3 年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けた経験の割合を業種別に見ると、「生活関連サービス業、娯楽業」(25.1%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(23.3%)、「不動産業、物品賃貸業」(22.6%)、「卸売業、小売業」(21.9%)等が相対的に高いという結果が出ました。消費者の身近でカスハラが起こるケースが多いと言えます。

最近の例では、新型コロナウイルスの感染拡大に関連し、ドラッグストアでマスク不足に対する理不尽なクレームをつける顧客や、店舗などでマスク着用を拒否する顧客の存在が問題になったケースもあり、これもカスハラ問題であると言えます。また、態様についても、店舗での直接のクレームのほか、コールセンターに対するクレームの電話、さらにはSNSを通じてカスハラが行われる場合もあります。

【行政のカスハラ対策】

なお、厚生労働省のパワーハラスメントに関する指針(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和2年厚生労働省告示第5号。いわゆる「パワハラ指針」)においても、「カスハラ」という用語そのものは使用されていませんが、顧客等からの著しい迷惑行為として、カスハラについての言及があります。また、厚生労働省は、2021年1月にカスハラ問題を討議する関係省庁連携会議を発足させました。企業がとるべき対策の指針をまとめることが予定されています。

【コロナ禍でカスハラが増えている?】

コロナ禍において、カスハラが増えている状況があります。その理由について、次のような指摘もあります。

いくつかの理由が考えられます。手軽に情報発信できる携帯端末の普及や、飲食店を客が評価する口コミサイトの登場によって、お店への中傷は広がりやすくなりました。
孤独な中高年の増加も背景にありそうです。スーパーマーケットの団体によると「社長を呼べ」などと無理難題を言って店員を威嚇し、ストレスを発散するのは社会的な階層の高い人に多いそうです。
こうしたところへ新型コロナウイルスの流行が重なり、人々のストレスや不安が一気に高まりました。UAゼンセンの調査では被害経験者の3割以上がマスク欠品への怒りや店内でのマスク着用拒否など、新型コロナ関連の迷惑行為を受けていました。
別の消費者調査でも、店などでカスハラを見聞きする頻度がコロナ流行前と比べ2.4倍に急増したとの結果が出ました。テレワークの進展もあり、職場や繁華街に出かけず自宅周辺で買い物を済ませる人が増えた結果、身近な場でのハラスメント多発につながっているようです。

2021年10月4日・日本経済新聞(夕刊)

【カスハラが起こった場合の現場での対応】

顧客などからのクレームについて、まずは、その内容を正確に把握する必要があります。録音をすることや、店舗であれば防犯カメラを確認するなどの方法も考えられます。そして、もし、そのクレームが正当なものであれば、当然、真摯に対応すべきです。しかし、大声で怒鳴る、物を叩く・壊す、店舗に居座り続ける、土下座を強要する、暴行、脅迫が行われるなどの悪質なカスハラについては、器物損壊罪、威力業務妨害罪、強要罪、暴行罪、脅迫罪などの、刑法上の犯罪に該当する可能性があります。

このような行為があった場合、企業としては、顧客等からのクレームが正当な要望なのか、それともカスハラなのかを見極めた上で、カスハラ行為に対しては毅然とした対応をすることが必要です。例えば、現場の判断で、直ちに警察に通報すべき場合もあるでしょう。
そのため、企業は、カスハラ行為に対する対応マニュアルなどで方針をあらかじめ定めておき、社内で研修を実施するなどして、現場のアルバイトを含めて会社で共有する必要があります。そのような方針策定をしておかないと、現場で適切な対応をとれず、事態がさらに悪化するリスクがあります。

【カスハラを受けた従業員との関係(安全配慮義務違反について)】

さらに、カスハラは、アルバイトを含む従業員との関係でも問題となるリスクがあります。

労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めており、使用者(企業)の労働者に対する安全配慮義務を定めています。つまり、企業としては、従業員が怪我をしたり、健康を害したりすることのないよう、従業員の安全に配慮(注意)することが求められています。このような安全配慮義務(あるいは、更に進んで健康配慮義務)に違反した場合、企業は当該従業員に対して損害賠償義務を負うことになります。

カスハラについても同様です。実際にカスハラが発生した場合に、企業が何も対応をしなかったときや、事前に全く対応策を準備していなかったときは、カスハラを受けた従業員に精神疾患などの被害が発生していれば、安全配慮義務違反として、企業が責任を負うリスクがあります。そのため、カスハラ問題については、企業が安全配慮義務違反を問われないよう、十分に対策を講じる必要があります。

【カスハラへ対策が必要!】

上述の厚生労働省のパワハラ指針においては、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、事業主が、次のような取り組みをすることが望ましいとされています。

(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

(2)被害者への配慮のための取組

(3)顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組

これらの項目を参考にして、カスハラへの対応方針を策定してマニュアルを作成し、社内研修などの実施によりカスハラ対応策を社内で共有することが必要です。

また、このような対応策を講じることに加え、カスハラは、業種・業態等によりその被害の実態や必要な対応も異なるため、各企業の特性を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることが、被害の予防(防止)に当たっては効果的です。

カスハラへの取り組みが遅れると、従業員の安全が脅かされ、人材確保が難しくなり、また、お客様に提供するサービスの質も低下する可能性があります。「カスハラ」対策が未整備の企業は、早急に対策を講じることが必要です。