フリーランスと取引をするときに企業が気をつける法的ポイントは?

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内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省は、フリーランスを保護するための「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を連名で策定して、2021年3月26日に公表しました。フリーランスとして安心して働ける環境を整備することを目的とするものであり、企業側にも、フリーランスを積極的に活用しようという動きが広まっています。本記事では、そのような企業が、フリーランスと取引をする際に気をつけるべき法的なポイントについて解説します。

【フリーランスとは?】

「フリーランス」という言葉は、法律上の用語ではありませんが、上述のガイドラインにおいては、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指す」という説明がされています。

最近では、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く就業形態)の拡大が話題になっています。「フリーランス」の広がりによって、高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献することが期待されています。

【フリーランスの活用の広がり】

新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、大企業のみならず、中小企業でも、フリーランスを活用しようという動きが広がっています。

SOMPOホールディングスは中小企業にフリーランス人材を紹介する事業を始める。新型コロナウイルス禍をきっかけに、外部の専門性の高いフリーランスに業務委託する動きが広がるが、ほとんどが大企業だ。全国約5万カ所の保険販売代理店を使い、中小企業からのフリーランス活用に関する相談やあっせん依頼を受け付ける。
(中略)
日本では業務委託で働くフリーランスが341万人に上る。ヤフーやライオンなど一部の大企業ではフリーランスを中心とした外部の副業人材を積極活用する。企業にとってはフルタイム雇用と比べ人件費を抑えられるだけでなく、商品・サービス開発に新たな視点を取り込める利点がある。

2021年3月30日付日本経済新聞

また、最近では、フリーランスなどの仲介を手がけるココナラが上場したことも話題となりました。

個人のスキル仲介を手がけるココナラが19日、東証マザーズに上場した。同社はフリーランスらの仲介大手の一角で約200万人のサービス登録者を抱える。国内に1千数百万人いるフリーランスを巡っては仲介会社が相次ぎ上場しており、個人の技能をやり取りする「スキルシェア」市場は2030年度には最大2兆6千億円になるとの試算もある。
ココナラの初値は公開価格(1200円)を9割上回る2300円になった。終値は2599円。19日終値ベースの時価総額は558億円となり、スキルシェアで先行して上場しているビザスク(349億円)を上回った。同日会見したココナラの南章行会長は「年齢や場所にとらわれず、多様な働き方を支えるインフラとしてさらに拡大したい」と話した。

2021年3月20日付け日本経済新聞

同記事では、フリーランスが増える背景には終身雇用など従来型の働き方の変化が大きいという指摘もされています。大企業が副業を解禁し、社外で働く会社員も増えて、フリーランス人口はさらに増えると予想されています。

【フリーランスと独禁法との関係】

フリーランスに適用される法律については、まず、独占禁止法があります。独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されるため、事業者とフリーランス全般との取引に適用されます。また、下請法は、取引の発注者が資本金 1,000 万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されますので、下請法も一定の事業者とフリーランス全般との取引に適用されます。

したがって、事業者がフリーランスと取引をする際には、独占禁止法の優越的地位の濫用規制に抵触しないようにすることや、下請法が適用される場合は、これを遵守することに注意する必要があります。具体的に問題となるのは、次のような場面です。

  1. 報酬の支払い遅延
  2. 報酬の減額
  3. 著しく低い報酬の一方的な決定
  4. やり直しの要請
  5. 一方的な発注取消し
  6. 役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い
  7. 役務の成果物の受領拒否
  8. 役務の成果物の返品
  9. 不要な商品又は役務の購入・利用強制
  10. 不当な経済上の利益の提供要請
  11. 合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定
  12. その他取引条件の一方的な設定・変更・実施

企業は、正当な理由なくこれらの行為を行わないようにする必要があります。なお、下請法の規制の対象となる場合、事業者は、法律で定められた書面を交付する義務がありますが、これについては、いわゆる電磁的方法による交付も認められるようになっています。例えば、クラウドメールサービスやオンラインストレージサービス、SNS(ソーシャルネットワークサービス)といった オンラインサービスを用いて書面を交付することも可能であるため、企業としては、これらのデジタルツールも十分に活用したいところです。

【フリーランスと労働基準法との関係】

フリーランスと取引する際に、形式的には雇用契約を締結せず、請負契約や準委任契約などの契約を締結しても、その実態が「労働者」に該当する場合は、労働基準法などの労働関係法令が適用されることになります。この判断は、契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて判断されますので、注意が必要です。

もし、フリーランスとして契約をしたつもりでも、その者が「労働者」と判断された場合、例えば、自社の就業規則が適用され、残業代を支払う必要が生じてしまう可能性もあります。したがって、この「労働者」であるか否かの判断は、企業にとっては、とても重要です。

「労働者」であるか否かの判断基準について、上述のガイドラインは、次のように述べています。企業としては、これらの基準に照らし、フリーランスが「労働者」になっていないかと常にチェックする必要があると言えます。

労働基準法第9条では、「労働者」を「事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定している。労働基準法の「労働者」に当たるか否か、すなわち「労働者性」は、この規定に基づき、以下の2つの基準で判断されることとなる。

  • 労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
  • 報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか

この2つの基準を総称して「使用従属性」と呼ぶ。「使用従属性」が認められるかどうかは、請負契約や委任契約といった形式的な契約形式にかかわらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断される。現在は、以下のような項目について確認し、判断することとしている(以下「判断基準」という。)。

1)「使用従属性」に関する判断基準
①「指揮監督下の労働」であること
a.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
b.業務遂行上の指揮監督の有無
c.拘束性の有無
d.代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
②「報酬の労務対償性」があること
(2)「労働者性」の判断を補強する要素
①事業者性の有無
②専属性の程度
※労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(昭和 60 年 12 月 19 日)で示された 判断基準に基づく。

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」から引用

また、フリーランスなど、仕事の受注者が、発注者等との関係で、労働組合法における「労働者」と認められる場合は、団体交渉等について、同法が適用されます。この場合、企業は、労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒むことや、労働組合の組合員となったこと等を理由とする契約の解約などの不利益な取扱いをすることが禁止されますので、注意が必要です。

なお、労働組合法における「労働者」の範囲は労働基準法よりも広いと解されています。したがって、企業側は、取引をしているフリーランスが、団体交渉の義務が生じることになる労働組合法の「労働者」に該当するか否かもチェックする必要があります。
企業としては、これらの点に注意しながら、フリーランスの活用をすることが望まれます。