帰国後すぐに退職した従業員に留学費用を返してもらえる?

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海外留学制度を利用した従業員が、帰国後すぐに退職を申し出た際に、会社が貸与した留学費用の返還を求めてトラブルになるケースが増えています。この場合、一定の条件や範囲内で、会社は従業員に対して留学費用の返還を求めることができます。本記事では、どのような場合に留学費用の返還を求めることができるのかについて解説します。

【海外留学制度】

海外留学制度を設けている会社があります。海外でMBAの取得をしたり、あるいは大学院に在籍する目的などの留学を支援する制度で、会社から、授業料のみならず、渡航費、住居費や留学中の賃金などが支払われる場合もあります。多くの制度において、帰国後の一定期間(例えば5年間など)に会社を退職した場合に、当該費用を返還する約束などをすることが一般的でしょう。

【海外留学制度のトラブル】

海外留学制度を利用して留学した従業員が、帰国後の何年間は退職しないと約束したにもかかわらず、すぐに退職してしまうようなケースがあります。会社としては、その従業員のために支出した授業料のほか、渡航費、住居費などの返還を求めようとしますが、従業員側からも、個別の事情などの主張がされ、費用の返還をめぐってトラブルになるケースがあります。

このようなトラブルの場合に、約束違反の退職であるとして違約金を求めることは、労働基準法16条に違反するためできません。会社としては、一定のルールに基づいて返還を求めていくことになります。

【留学費用の返還が認められた最近の裁判例】

近時、留学費用の返還をめぐる裁判がありました。報道によりますと、社外研修制度を利用した海外留学から帰国後に退職した建設会社の元従業員の男性が、会社に対して留学費用と相殺された未払い賃金などの支払いを求めた裁判において、東京地裁は2022年4月20日、元従業員の請求を棄却しました。さらに、会社側の請求に基づいて、留学費用の残金約729万円を支払うよう元従業員に命じたとのことです。

判決によりますと、その元従業員は2009年に総合職として入社、社外研修制度に応募して2018年に米国の大学に入学し、2020年5月に修士課程を修了したものの、直後に退職の意向を会社伝え、翌6月に退職したそうです。

会社側は、復職後5年以内に退職する場合、授業料など留学中に貸与した費用を全額返済するとの誓約書があると主張し、元従業員側は「規定について十分理解していなかった」などの主張をしていたとのことです。

裁判所は、復職後5年経過すれば返済を免除するとの規定が不合理とは言えず、元従業員も規定の詳細を理解していたと指摘して、会社側の費用返還の主張を認めました。 (2022年4月20日 日本経済新聞記事を参考にしました)

【留学費用の返還請求ができる条件・範囲等】

まず、そもそも、留学が、会社の業務であるような場合(例えば、自社の技術者を養成するために業務命令として海外分社への出向というような形で留学をさせて、現地の学校で業務に関連する科目を学ばせたような場合など)は、留学費用の返還を請求することはできません。したがって、まずは、留学制度が、あくまでも自主的に自由な意思に基づいて参加するものであることが必要です。

また、留学費用等の返還についても、返還に関する明確な規定があり、留学する従業員の自主性と自由な意思が確保されているような場合であれば、授業料などの実費の返還については認められるものと言えます。

ただし、一定期間(例えば5年間)にわたって、退職自体を禁止することはできません。その期間の就労を条件として返還義務を免除することで、事実上、退職を思いとどまってもらうような形にならざるを得ません。

なお、返還を求める費用の範囲についても、授業料、渡航費用などを超えて、留学期間中の賃金相当の生活費の返還までに及ぶような場合には、その定めの有効性が問題になるリスクはあります。また、退職の場合の返還方法についても、返還金額が高額に及ぶような場合には、事実上退職の自由が制限されると評価されるリスクがありますので、分割払い等、合理的な返還方法をとることを検討する必要があると言えます。

いずれせよ、海外留学制度を設ける場合、費用の返還について、明確なルールをあらかじめ定めておくことが重要です。