社長によるライバル会社からの情報漏洩事件

Images by iStock

2021年7月5日、株式会社カッパクリエイト(親会社コロワイド)の社長が、元取締役であったはま寿司(親会社ゼンショーHD)の元同僚から、カッパクリエイトに移籍した20年11~12月中旬に、共有されていたはま寿司の売り上げデータを複数回にわたって個人的に受け取った疑いで、家宅捜索を受けたことが明らかになりました。(カッパ・クリエイトを家宅捜索 警視庁、営業秘密侵害か 日本経済新聞)ライバル同士の情報漏洩は、最近ではソフトバンクと楽天モバイルとの問題がありましたが、今回のケースは刑事事件にまで発展する様相です。企業における大事な情報をどのように扱うのか、を改めて考えさせるケースとして紹介させていただきます。

「営業秘密」に当たらないと違法にならない

企業では顧客情報、財務情報、製造手法、ソースコードなど、ライバル企業に情報が提供されてしまうと、多大なる損害が生じる可能性がある情報を抱えています。この情報を不正持ち出しされてしまった場合に、持ち出した者に対する一番強力な対抗手段は、不正競争防止法違反で、刑事処分を受けさせることです。不正競争防止法では、「営業秘密」に該当する情報を持ち出すことが、違反になるかどうか重要な境目です。では、「営業秘密」とはどのような場合に該当するでしょうか?3つの要件があります。

①秘密管理性
  ⇒ 秘密として管理されていること
②有用性
  ⇒ 有用な営業上、技術上の情報であること
③非公知性
  ⇒ 公然として知られていないこと

3つの要件のうち、要件として満たしているかどうか、いつも悩ませるのが、①の秘密管理性の要件です。私も情報がライバル企業に持ち出されたことの相談を受けた際にお聞きするのが、「どのようにその情報を保存、管理していましたか?」という点です。この要件の大事なポイントは、従業員に対し、「会社にとって重要な社外に漏らせない情報だぞ」、と認識させる措置をとっていたかどうかです。具体的に、どのような場合に「秘密管理性」の要件を満たすのか、以下、紙とデータに分けて、要件を満たすために重要なポイントを整理します。

<紙の場合>
 情報が紙で保存されている場合、
●一般情報と秘密情報とを分けて管理している
●㊙(マル秘)などを紙に記載している
●施錠できるキャビネットに保管している
●自宅の持ち帰り禁止にしている
 
<データの場合>
 情報がデータで管理されている場合、
●パスワードを設定している
●他のファイルと区別して管理している
●データファイルに㊙(マル秘)などを記載している
 
これらの措置を講じていることに加えて、
●従業員と秘密保持契約(NDA)を締結している
●重要な情報の取り扱いにつき、研修を実施している

などを合わせることにより、「秘密管理性」と判断される可能性がより高まります。「秘密管理性」の要件を満たさないと、不正競争防止法違反として警察も動いてくれません。改めて、自社において、社外に絶対持ち出されたくない情報の取り扱いについて、秘密管理の仕方を検討する必要があります。

今回のカッパクリエイトが、はま寿司から持ち出した情報は、はま寿司の「売上データ」であると報道されています。ライバル企業の売上データは、飲食業において、売れ筋商品の状況、店舗ごとの売上、日時や天気による売り上げ推移などを把握できる貴重なものであり、極めて有用なものと判断できます。しかし、これがどのように「秘密管理」されていたのかが、不正競争防止法違反での立件に向けての最大の障壁となります。
本件では、既に家宅捜索に入っている事案であり、はま寿司側での「秘密管理性」が満たされることが想定されますが、まだ起訴にまで至っていないので、今後の動きが注目されます。

社外に出ると困る情報の取り扱いに気を付ける

情報は簡単に持ち出し、持ち込むことができます。特に、退職者が持ち出す、中途入社が持ち込む、など、企業にとって重要な情報は実際多くの場合にライバル企業などに情報が流れていることが多いです。
 もちろん、情報の持ち出しが行われないように、物理的に管理することが大事ですが、持ち出された場合に、直ちに、警察への相談ができるように備えておくこと、従業員に対し「不正競争防止法違反として捜査対象になるよ」というメッセージを伝えておくことが、持ち出し行為に対する有効な牽制機能を果たします。
自社にとって重要な情報は、

  1. 「秘密管理性」を満たすような管理をする
  2.  従業員に対して情報の持ち出しを許さないことの研修
  3.  従業員に対して情報の持ち出しは「不正競争防止法違反」になることを伝える

という対応を行い、情報の管理における防衛をしておくことが望ましいです。