事業を廃業するに至った不正の全貌とは?第三者委員会の調査報告書の考察(SBIソーシャルレンディング株式会社)

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2021年4月28日、SBIソーシャルレンディング株式会社(SBISL)が設置した第三者委員会の調査報告書が公表されました。これを受けて、SBISLは、5月24日、「当社の今後の業務運営に関して、第三者委員会調査報告書の内容をもとに検討を重ねた結果、当社ソーシャルレンディング事業の継続は困難と判断し、本日付の当社取締役会において、全既存ファンドの償還を条件として、自主的な廃業および同事業からの撤退を決定いたしました。」との発表を行いました。何と同社で運営していたソーシャルレンディング事業の撤退との事態に至ったのです。今回の記事では、IPO準備のプレッシャーによる過度な利益追求がもたらした不正事例を紹介したいと思います。

新たな金融の仕組み ソーシャルレンディングとは

SBISLが運営していたソーシャルレンディングとは、貸付型クラウドファンディングとも呼ばれています。金融庁の定義によると「インターネットを用いてファンドの募集を行い、投資者からの出資をファンド業者を通じて企業等に貸し付ける仕組み」と定義しています。ソーシャルレンディングは、銀行等の金融仲介機関を経由せずに、インターネットを用いて不特定多数の者から資金を集めることによって、融資・貸付の原資を調達するものです。

簡単に言うと、

  1. 運営会社がインターネットを通じてファンドへの投資の申し込みを受ける
  2. 投資家(個人投資家が多い)がファンドへの出資をする
  3. 運営会社がファンドのGPとして資金が必要な企業に貸し付ける
  4. 貸付を受けた企業から元本・利息の返済により投資家への分配を行う

ソーシャルレンディングは、約5年前から話題となり、ソーシャルレンディングを運営する会社が相次ぎました。しかし、2018年以降、業界のトップであったmaneoマーケットをはじめ、複数の会社において、投資家に対してファンドの募集を行う際の募集内容が不適切だったなどして、金融庁から行政処分が下される事態に至っています。ソーシャルレンディングは、企業側としては、短期的な資金ニーズがある場合、金融機関からの借り入れが難しい状況のもと、一般投資家から資金を集めて、少し金利が高いものの、借入を行いプロジェクトを実行する、投資家としては貸付であることから元本が返済されることを前提に一定の金利を得られます。特に、日本の金融機関の融資審査が厳格なことから、新たな金融の仕組みとして注目されていました。しかし、今回のSBISLの問題により、事実上ソーシャルレンディング業界は、行政からも徹底的にマークされ、今後業界的に伸びていくのが難しい状況に陥りました。

何を調査したのか?

SBISLが発表した内容によると、本件の概要としては、

当社は、2008年の設立以来、投資家から募った出資金を基にして、再生可能エネルギープロジェクトや不動産ファイナンス等を目的とした取引に取り組んでまいりました。
このような取組みの中で、特定の業者(以下「A社」といいます。)を請負業者とした複数の案件において、当社は、太陽光発電所あるいは中規模マンションの開発等を目的として設立された複数の合同会社(以下「借手SPC」といいます。)に貸付けを行い、借手SPCが①A社に工事を請け負わせ、完成した発電所又はマンション等を売却すること、又は②他の金融機関からの借換え融資を行うことによって弁済を受けることを企図しておりました。
当社は、まず投資家から匿名組合出資を受け、次に当該出資金を基に借手SPCに貸付けを行い、その上で、借手SPCは、請負業者であるA社に請負代金の支払を行っておりました。
しかしながら、当社からの貸付金の一部について、借手SPCからA社に対して工事元請契約に基づき支払がなされた後に、当該資金が、借手SPCが発注をした不動産事業又は太陽光発電事業に使用された事実が確認できないことが判明し、また、当初スケジュールどおりの工事完成が困難となりました。

SBI ソーシャルレンディング株式会社 第三者委員会

SBISLは、A社の案件に関して、A社に貸し付けを行うために、ファンドを組成して投資家を募集しました。しかし、貸付金は、本来、A社の案件の開発費用を使途しなければならないところ、実際には、その開発費用には使われずに使途が不明状態に陥ったのです。その結果、投資家は本来返済および得られるべきである利息も得られない状況に至りました。もちろん、投資家としては、投資である限り、一定のリスクを負います。そのため、元本の返済すら厳しい状況になることもあり得ます。しかし、今回のケースは、SBISLは、A社の案件につき、その資金使途の実態が伴っていたのか、A社の財務状態の確認、などを怠ったもので、投資家保護を図るべき金融事業者としての責務を果たしていなかったことが指摘されています。
第三者委員会の指摘事項は、以下のとおりです。

  1. A社の案件につき投資家に対する資金使途の説明が虚偽であった
  2. A社の案件につき投資家に対する資金使途の説明に誤解を生じさせるものであった
  3. 貸付先であるA社に対して不十分な審査しかしていなかった
  4. 貸付先であるA社に対して不十分なモニタリングしかしていなかった

驚くべきA社への依存度の高さ

SBISLのソーシャルレンディングによる融資残高の合計は397億円(21年3月末)です。SBISLは、A社との案件を2017年からスタートさせていますが、A社との関連ファンドの依存度が年々高まっていきました。今回の調査報告書でもA社の案件のみが指摘されていますが、その依存度は報告書によると、以下のとおりです。

A 社関連ファンドとして、2017 年 5 月から 2020 年 10 月までの間に合計 39 ファンド、383 億9505万円が募集及び融資実行された。
そして、A 社に関連する本件ファンドの融資残高が、SBISL 全体の融資残高に占める割合は、2017 年 3 月時点では 0%であったが、
その後急拡大し、
2018 年 3 月時点で SBISL全貸付残高の32.1%
2019 年 3 月時点で SBISL全貸付残高の43.8%
2020 年 3 月時点で SBISL全貸付残高の43.8%
2021 年 1 月時点で SBISL全貸付残高の39.2%

SBI ソーシャルレンディング株式会社 第三者委員会

このように、SBISLの貸付の4割程度が、A社の案件であったことがわかります。ソーシャルレンディングは、多様な企業への資金調達ニーズに応えるビジネスでありながら、特定の1社への依存度が極めて高い状態でした。私もクラウドファンディング、ソーシャルレンディングのビジネスの相談を受けたことがありますが、このビジネスを継続するにあたっては、資金調達が必要な案件を発掘することが必要です。しかも、金融機関からの借り入れが困難な企業への貸付案件を探ることから、案件発掘が困難を極めるのが実情です。その中、SBISLにとって、A社は継続的に案件を提供してくれる非常に有難い会社であったことが想定されます。

最終的に第三者委員会では、A社関連ファンドについて、SBISLが投資家に説明した資金使途に違反していると認められた案件の融資実行額は、融資実行額の合計207億円のうち、その62.4%である129億円であったと認定しています。SBISLとしては、ソーシャルレンディングのビジネスにおいて、継続的に収益をあげるためには、A社に依存せざるを得ない状況であったことが推察されます。

IPO準備による事業推進の怖さ

第三者委員会の調査報告によると、SBISLは、IPOの準備を行っていたと認定しています。調査報告書では、本件問題の主要な原因として、IPO準備に伴う経営トップの営業優先・過大な収益目標の設定であったことをあげています。以下、調査報告書によると(一部筆者が変更しています。)

SBISL は、2018 年 12 月頃から本格的な上場準備を開始しているところ、
2020年3月期の売上高は 848 百万円(前期比 114%)、営業利益は 244 百万円(前期比 104%)
上場直前期にあたる2021年3月期は、売上高目標を1,119 百万円(前期比 131%)、営業利益目標を 402 百万円(前期比 164%)とした。
しかし、 2020 年 6 月末時点で、第一四半期(2020 年 6 月末)の営業利益実績は、約 10 百万円程度と、目標を大きく下回るものであった。
このため、経営トップは、第二四半期の営業利益目標を大幅に引き上げ、年間営業利益目標の約半分 200 百万円を上期(2020 年 9 月末)で社員一丸となって達成する号令を発していた。この点、このように極めてアグレッシブかつ実現可能性が希薄な、過大目標の設定は、取締役会等の議論を経たり、何らかの合理的根拠に基づいて積み上げられたものではない。経営トップの独断によると評価して良いものであった。
・・・・・そのような経営トップの営業優先志向、貸付残高を是が非でも上げるとの強い姿勢は、そのまま SBISL の企業組 織の姿勢(企業風土)となり、いわばこれが会社の「正義」となった。上場を控えた状況の中、上記のような経営トップの姿勢に体を張って異を唱えることは、事実上極めて困難な状況となっていたものと思われる。
・・・・・このような企業風土を背景に、過大な営業目標を達成するための安易な方策として、A 社案件が産み出す手数料収入を得ることに更に傾注することとなり、A 社の持参するスケジュールの極めてタイトな大型案件に、厳格な審査を行わず、次々と取り組むこととなった。 かかる企業風土及び過大な目標設定は、今回の問題が発生した主要な要因として指摘できる。

SBI ソーシャルレンディング株式会社 第三者委員会

IPO準備に入り、ましてやN-1、N期に入ると、何よりも経営陣は売上・利益目標に対してのコミットメントを求められます。もちろん、事業成長のために、目標達成は大切です。持続可能なビジネスの構築は本当に難しく、経営者の方々がいかに苦労して社会に求められるビジネスを構築されているのかを考えると、いつも頭が下がる思いです。

IPO準備に入ると、引くに引けない状況と感じ、とにかく推進する気持ちはわかります。しかし、改めて自社にとって本当にIPOが必要なビジネスなのか、一般投資家に上場後も成長可能性を感じさせられるのか、を見つめなおす場面、自分でそれができなければ他者から、その目線で指摘をしてくれる環境を作ることも必要と感じます。今回のケースは、IPO準備から廃業にまで至る、という稀なケースかもしれませんが、経営陣のアクセルとブレーキの使い方を改めて学ぶことができるケースと思い、紹介させていただきました。