野村不動産ホールディングスの「事業等のリスク」ここがすごい!

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今回は、「野村不動産ホールディングス」の「事業等のリスク」の記載(有価証券報告書2020年3月期)。
いわゆる開示府令の改正により、「事業等のリスク」は、

  • 経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク
  • リスクが顕在化する可能性の程度、時期
  • リスクが顕在化した場合に経営成績に与える影響の内容
  • リスクへの対応策

の記載が求められるようになりました。野村不動産ホールディングスは、この4つの項目を丁寧に記載するとともに、どのようにしてリスク管理を行うのかを明確にしています。

リスク管理体制の記載

(2) リスク管理体制
当社では、グループ経営に関する様々なリスクの審議を行うため、経営会議をリスクの統合管理主体として定め、主要なリスクの状況について定期的にモニタリング、評価及び分析を行い、各部門及びグループ各社に対して 必要な指導及び助言を行うとともに、その内容を定期的に取締役会に報告を行う体制としております。
 「A:投資リスク」、「B:外部リスク」については、統合管理主体である経営会議が直接モニタリング等を行い、 「C:災害リスク」及び「D:内部リスク」については、経営会議の下部組織として設置している「リスクマネジメント委員会」が定期的なモニタリング、評価及び分析を行うとともに、発生前の予防、発生時対応、発生後 の再発防止等についての対応策の基本方針を審議しております。
また、リスクマネジメント委員会委員長により指名されたグループ各社の取締役、執行役員等で構成される「グループリスク連絡会議」を設置し、グループ内での リスク情報及び対応方針を共有しております。 リスク管理については、各部門長が所管する部門のリスク管理を統括し、その状況を必要に応じて経営会議また はリスクマネジメント委員会に報告するとともに、グループ各社の社長(野村不動産㈱においては各本部長)は、リスク管理に関する事項について適時適切に部門長に報告することとしております。

「事業等のリスク」の記載において、リスク管理体制を明確にしている企業は非常に少ないです。野村不動産ホールディングスは、「経営会議」というCEOと執行役員がメンバーとなる経営の中心の会議体をリスク管理の中枢としています。加えて、「リスクマネジメント委員会」を経営会議の諮問機関として設置し、「経営会議」で対応できないリスクの管理を委員会で行う形式をとっています。経営の中心メンバーが、リスク管理を徹底する姿勢を鮮明している内容であり、非常にインパクトがあります。ぜひ、有価証券報告書を見ていただきたいのですが、そのリスク管理体制を図示して、投資家にわかりやすく説明しています。

さらに、凄いのが、3線ディフェンスの導入を明確にしていることです。

また、グループ各社において事業を掌る組織をリスク管理の「第1線」、当社及びグループ各社においてコーポレート業務を掌る組織を同「第2線」、当社及びグループ各社において内部監査を掌る組織を同「第3線」と定義し、当社の第2線及び第3線がグループ各社の第2線及び第3線に支援・指導・協働を行う等、それぞれの立場からリスク管理における役割を担うことで、ディフェンスラインを構築しております。

2019年6月28日、経済産業省において「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(グループガイドライン)が発表されました。グループガイドラインは、多数の子会社を抱える企業に向けて、グループのリスク管理を行うポイントを解説したものです。グループガイドラインでは、「3線ディフェンス(3lines of defense)」の導入を推奨しています。この3線ディフェンスの導入を明記したのが、上記の記載です。多数のグループ会社を抱える企業にとって、リスク管理の肝となるのが、「3線ディフェンス」の導入です。3線ディフェンスの解説は、少し長くなるので、ここでは割愛します。野村不動産ホールディングスは、上記のとおり、経営会議をリスク管理の中枢に置くとともに、3線ディフェンスも導入する、まさしく最強のリスク管理体制といえます。私がリスク管理コンサルティングを行うにあたっても、模範となるリスク管理体制として紹介させていただいております。

さらに、さらに、凄いのが、リスクの記載です。このページにすべて記載できませんが、一部だけ抽出して、記載しました。

リスク項目の記載
リスク項目
①不動産投資に伴うリスク
リスクカテゴリー
(A)投資リスク
リスクの内容
当社グループが行う不動産投資・開発事業においては、予期せぬ土壌汚染の判明、許認可の取得の 遅れ、追加の工事の発生等により、事業が計画通りに進捗しない場合があります。そのような場合、 当初の事業スケジュールの変更に伴う竣工時期・計上時期の遅れや追加費用等が発生し、当社グルー プの財政状態及び経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
主な取り組み
不動産投資・開発事業については、予めリスクの抽出及び分析・評価、リスクテイクまたはリスク 回避の方針を検討の上、当社またはグループ会社の経営会議または取締役会等において判断をしてお ります。特に、土壌汚染に関しては予め来歴調査や汚染調査を実施しており、汚染が確認された場合 は、当該用地の取得中止又は専門業者による汚染の除去等の実施をしております。 また、事業用地の取得後は、スケジュールが遅延するリスク及び建築コストの状況等について、事業を所管する組織にて把握し、特に重要な事象が発生した場合には必要に応じて当社またはグループ 会社の経営会議または取締役会等に報告し、課題への対応を行っております。

このように全てのリスク項目について、リスクの内容とそれに対する対応策(主な取り組み)を明確に記載されています。野村不動産ホールディングスがどのようなリスクを重要視し、対応策をとっているのか一目瞭然の内容となっています。開示府令の要求する①~④の内容をすべて満たしつつ、投資家に対して、いかにわかりやすく説明するのか、この両面を兼ね備えた素晴らしい記載です。

参考情報:「野村不動産ホールディングス」の「事業等のリスク」の記載(有価証券報告書2020年3月期)