上場企業において、「ESG」を意識した開示の必要性が高まっている。しかし、IPOしたベンチャーを含めた小・中規模の上場企業において、「まだ、うちの会社は、ESGを意識する必要はない」という傾向がある。実際にESGを意識した情報開示を行っている企業が全体の15%にしか過ぎない状況からみても、ESGへの関心度は高くない。
【ESGとは】
「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のことを指し、企業活動におけるESGに関する課題を解決する取り組みを行うことをいう。2006年に国連のアナン事務総長が機関投資家に対し、ESG情報を投資判断に組み込むことを呼びかけたことから、世界に広まった。以来、2020年においては、世界において2860の投資機関がESG情報を投資判断に組み込み、日本国内においても、80の機関がESG情報を投資判断に組み込むことを明示している。そのため、投資機関においては、ESG投資という観点で、ESG課題に積極的に取り組み・開示を行っている企業に対する投資を重視する傾向が強まっている。
【東証の動き】
東京証券取引所では、世界の投資機関のESG投資の動きから、日本市場が乗り遅れないために、2020年3月31日、「ESG情報開示実践ハンドブック」を公表した。新型コロナウイルスの感染拡大時期に公表されたことから、注目度はそれほど高くなかったが、東証自ら上場企業がESG課題に積極的に取り組んでほしい、という強烈なメッセージを発信したものである。本ハンドブックは、上場企業がESG開示を実践に向けて一歩踏み出すにあたっての一助となるべく作成されたものである。「ESG」ってよくわからない、という経営者、企業担当者にとって、ESGに対する理解度を高める非常にわかりやすい資料であり、ぜひ一読することをお勧めしたい。東証が、企業にESG課題への取り組みを積極的に公表してほしい、という強い思いがあることが読み取れる。
【実は、日本企業は十分にESG課題に対応している】
ESG課題への取り組み、とどうする、と悩む企業担当者は多いが、実は、日本企業は、ESG課題への取り組みを実践している企業がほとんどである。近江商人の経営哲学である「三方よし」(「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」)の考え方こそが、まさしくESG課題への取り組みそのものである。要は、日本企業において、当たり前のように浸透している「三方よし」の考え方を、しっかりと第三者に説明できるように具体的に整理し、開示を積極的に行うことに尽きるのである。
例えば、食品メーカーである味の素株式会社は、これまで当たり前のように企業として実践してきたことをESGの考え方に基づき、以下のように整理して、非常にわかりやすく開示を行っている(味の素2020年3月期 有価証券報告書)。
- Environment(環境):「フードロスの削減:2050年までにライフサイクルでフードロスを半減します。」
- Social(社会):「うま味を通じて たんぱく質・野菜をおいしく摂取し、栄養バランスを改善します。」
- Governance(ガバナンス):「従業員の働きがいを向上します。」
味の素の有価証券報告書には、企業の取り組みをESGの視点ですべて再構成されており、誰が読んでも、ESG課題に積極的に取り組んでいることがわかる内容である。味の素という大企業だからこそできる、という内容ではなく、どの企業でも事業活動を継続していく中で、「三方よし」の考えのもと実践できている企業活動である。
要は、これまでの自社の企業価値を高めるために行っている活動を、見つめなおし、整理し、発信する、ということがESGに関する情報開示のポイントである。もちろん、ESGの取り組みが足りない部分があれば、自社に最適なかたちで実践すればよい。ひと昔前は、CSR、という言葉がよく使われたが、ESGとその意味に大きな差はないともいえる。IPO銘柄では、SaaS企業、AI企業、最近ではDX企業など、株価がつきやすい企業もトレンドがある。企業の情報開示は時代に応じたトレンドがあり、そのトレンドにうまく適応していくことが求められる。