ベンチャー企業が抱える中途採用の悩み

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中途採用でトラブルを抱えるベンチャー企業が非常に多い。「レファレンスチェック」とは、中途採用の選考において、書面や面談等から判断できない、前職での職務状況か経歴の正確性などについて、第三者から前職に問い合わせるなどにより確認を行うことをいう。

私のクライアントでも中途採用の従業員が入社時に提出されていた職務経歴どおりのパフォーマンスに全く満たない状況であったり、酷い場合には経歴詐称までしている場合もある。なかなか欲しい人材を獲得できないベンチャー企業では思わず、経歴の内容に飛びついて採用決定してしまうことも少なくない。そのため、最近では、レファレンスチェックを行い、中途採用の応募者の採用後のリスク回避を行う企業が増えている。

これまでベンチャー支援を行ってきた中で、人的トラブルが発生しやすいタイミングは、以下のとおり。

1.スタートアップの時期

  一緒に事業を立ち上げた事業パートナーや創業直後に経営幹部として関与してくれる人とのトラブルは、ベンチャー企業あるあるの一つ。

スタートアップ段階では自社にフルコミットしてくれる人材はなかなか集まらない。また経営者側にとっても、優秀な人材をフルコミットで抱えることは報酬や給与が高額となりコスト的に厳しい。

そこで、スタートアップの経営者は、他の会社の経営している人に取締役に入ってもらったり、幹部として名を並べてもらったりすることがある。このときに、報酬や給与を多く支払うことができないことから、株式を持ってもらおう、という判断に至る。

しかし、フルコミットしているベンチャー経営者にとって、一定の的確なアドバイスはしてくれるものの、手足を動かさずフルコミットしてくれないパートナーの存在は事業成長にとって障害となることが多い。いざ、事業パートナーや経営幹部との関係を解消しようとしても、株式を持たれており、その株式の扱いを巡りトラブルとなる。ベンチャー経営者としては、「出資してもらったときの価格で買い取らせてほしい」と思っても、そんなに甘くはなく、高額での買取を要求されることが多い。

出資をしてもらう際には、スタートアップこそ慎重にパートナーとの間で契約を締結しておき、関係を解消する際には、株式の買戻しをできる状況にしておく必要がある。具体的には役員や従業員としての地位を失う際に、その保有する株式をベンチャー経営者が買い取り(価格や計算式も事前に決定しておく)をできるようにしておく方法である。

これまで、関係解消後も高額な株式の買い取りを要求され、なかなか株式の買戻しを行うことができず、苦労しているベンチャー企業をみてきた。

2.IPO準備(N-3、N-2)の時期

順調に成長しIPO準備段階に入ったベンチャー企業では、管理部門の幹部や社員を中途採用で獲得する必要が出てくる。順調に成長しているベンチャー企業において、営業や事業部門の中途採用については、ベンチャー経営者も自らの運営する事業に適している人材かどうかの見極めは的確であり、採用後のトラブルは生じにくい。

しかし、IPO準備に入ると管理部門の強化を行う必要があり、そのような人材の採用経験のないベンチャー企業にとって、適切な採用を行うことはなかなか難しい。結局、中途採用した人材が、IPO準備のスキルが全くなく、経理、人事労務、総務、法務などの能力が不十分であり、コミュニケーション能力を欠くことなどにより、IPO準備の大きな支障となることもある。中途採用をした社員に給与を減額するような契約条件の変更を求めたり、他の会社に移籍してもらいたい、と思っても、労働者の地位は保護されているので、なかなか会社側の都合で話を進めることは難しい。特に管理部門を専門に扱ってきた従業員は、労務に関する知識が豊富であり、会社側都合の要求をすると、雇用契約上の地位が脅かされたとして、大きな労務トラブルに発展する可能性がある。

こういったトラブルの回避のために、記事にあるようなレファレンスチェックを行う企業が増えてきている。

しかし、気を付けなければならないのは、レファレンスチェックを行う際には事前に中途採用の応募者の同意を得なければならない点である。同意なく行う場合にはプライバシー侵害等の指摘を受ける可能性がある。

個人情報保護法の制定、個人情報保護の強化という動きを経て、レファレンスチェックがいったん下火になったが、最近はレファレンスチェックを強化する企業が増えてきた。本質的にはレファレンスチェックをすることなく、面接等により採否を判断できるのが理想ではあるものの、その見極めは本当に難しく悩ましい問題である。