ハイアス・アンド・カンパニーで起きた不正とは?
2020年10月26日、ハイアス・アンド・カンパニー株式会社(以下「ハイアス社」)において第三者委員会の調査報告書が公表された。ハイアス社の調査報告書では主な不正のポイントとして以下の2点の不正が報告されている。
- マザーズの上場準備時期(2016年4月上場)であった2014年の不適切な会計処理の事実
- 東証一部への市場変更準備時期(2020年7月21日一部市場変更)に判明した過去の不適切な会計処理(2016年)を東京証券取引所へ報告をしていなかった事実
IPOを目指すベンチャー企業の経営陣は、上場準備段階において業績目標の達成の強烈なプレッシャーを受ける。業績目標をクリアできなければ、上場自体が延期または中止に追い込まれかねない。この経営陣のプレッシャーは極めて大きい。特に、すでに多額の資金調達を行い、外部の株主からIPOへの期待が高まっている場面では余計にそのプレッシャーは大きい。この報告書では、ハイアス社の経営陣が、まさしく、業績目標達成のプレッシャーに苦しんでいたことがうかがい知れる。
第三者委員会による報告後のハイアス社の状況
ハイアス社は、第三者委員会の調査報告書の公表後、以下の事項をリリースしている。
- 東証一部からマザーズへの市場変更
- 代表取締役と取締役2名の辞任、監査役3名の辞任
- 監査法人アリアとの監査契約(あずさ監査法人が監査契約を終了させたことに伴う)
- 旧経営陣の持ち株比率低下に向けた方針発表
- 臨時株主総会により新経営体制への移行
東証一部に7月21日に市場変更したにもかかわらず、11月には、東証一部からマザーズへの市場変更という異例の事態となっている。また、不適切会計に関与した代表取締役及び取締役が辞任するほか、当時の監査役3名全員が辞任するという点でも異例な事態である。
企業経営の誠実性の大切さ
ハイアス社が行った不正は、前述のとおり、新規上場申請にあたって、上場審査をすり抜ける目的で、不適切な会計処理を行ったものであり、それに元代表取締役を含む取締役のほとんどが関与または認識していたものであった。(マザーズの上場準備時期(2016年4月上場)であった2014年の不適切な会計処理の事実)
不適切な会計処理とは、実態のない取引による売上の過大計上、本来翌期に計上すべき売上を当期の売上計上に押し込むという売上の前倒し、売上原価や広告費等の過小計上などの行為を行っていたことが報告されている。
ただし、これらの不適切な会計処理による過年度決算の訂正規模としては、約1700万円にとどまるものであり、新規上場や市場変更に係る数値基準の未達自体はない、比較的規模としては大きくないものであった。
ところが、東京証券取引所や監査法人は、上記のとおり、ハイアス社に対して、極めて厳しい姿勢を鮮明にした。
取引所や監査法人が最も重たく捉えた点は、不適切会計処理があったことのみならず、不正が発覚した後も、取引所に対する虚偽の説明や監査法人の監査手続の妨害といった隠蔽工作を行うなど、信頼性のある財務報告を行う意識や市場関係者に対する誠実性が著しく欠如していた点(「東証一部への市場変更準備時期(2020年7月21日一部市場変更)に判明した過去の不適切な会計処理(2016年)を東京証券取引所へ報告をしていなかった事実」)であった。
ハイアス社は、2012年ころから数度、上場審査が延期となり、ようやく念願の上場を果たした2016年4月のマザーズ上場であった。この上場前後の時期に、不適切な会計処理が経営陣主導のもとに行われていた。ハイアス社では、上場審査のすり抜けを画策したことにより、あらゆる歪が生じていた。
- マザーズ上場の直前であった2016年3月、あるウェブサイトにおいて、ハイアス社では某公認会計士により不当な経理処理が行われている可能性がある旨の記事が掲載された。
- 2018年11月、上記不正経理の事実を指摘したウェブサイトに160万円を支払って、某公認会計士による不正な経理はなかったと報道させたことが記事として掲載された。
- 2020年5月、6月、ハイアス社の株主から、某公認会計士による不正経理への関与に関して、取締役が認識していたことから、取締役に対する責任追及訴訟の提起の請求が行われた。
このような歪みから、ハイアス社の経営陣の不正な会計処理を、監査役が認識するにいたった。しかし、監査役は、即座に監査法人や取引所に対し、経営陣の不正関与の事実を早期に伝えるに至らなかった。特に、2020年7月、マザーズから東証一部への市場変更という極めて大切な時期にもかかわらず、このような不正の事実関係を、取締役や監査役は、監査法人および取引所に伝えなかったことを重く受け止めている。
上場することの重さを改めて認識させてくれた
ハイアス社の第三者委員会は、調査報告書の最後に以下のように付言している。
当社(ハイアス社)では、上場すること、本則市場への市場変更を達成することによって社会的な信用を得ることが目的と化していたのではないかと思われる。
上場、市場変更の先に、当社は何を目指していたのか、どのように会社の果たすべき使命を全うしようとしていたのか、経営陣は「上場の先にある当社の目的」について真摯に考えてこなかったのではないだろうか。
たしかに社会的な信用を得ることは当社にとっては重要であり、社会的な信用の向上に伴い、当社の株価も上昇するであろう。しかし「株価の上昇=企業価値の向上」ではない。当社の理念を大切にして社会的な課題を解決することで中長期的に業績を上げ「社会にとって必要な会社」と認められることが、なにより当社の企業価値の向上に結び付くのである。そして、当社が上場会社として「社会の公器」となる道を選択したのであれば、一般株主を含めたステークホルダーへの説明責任を 果たす姿勢を培っていかねばならない。 当委員会による調査活動において、多くの役職員の供述の中に「顧客のため、地 域のため、従業員のため」といった言葉が聞かれたが、一般株主のため、といった言葉は聞かれなかった。これは、当社にとって上場すること、本則市場への市場変更を遂げることが目的化しており、上場会社としての姿勢を培う機会が乏しかった からではないかと思料する。しかし、上場会社である当社は、パブリックカンパニーとして、一般株主の利益を最大化することへの配慮に思いが至らねばならない。 一般株主や投資家に迷惑をかけてしまうような事態が発生した際、監査法人に相談をする、証券取引所や自主規制法人に状況を報告する、財務局に報告をする、といった意識が希薄化していたのは、おそらく株主や投資家保護に向けられたディスクロージャー(開示規制)やアカウンティング(説明責任)への意識が乏しかったからであろう。 今後の再生にあたり、まずは当社の役職員において、上場会社の構成員としての自覚を持っていただきたい。
第三者からすると、当たり前のことかもしれない。しかし、上場を目指す、上場している企業の経営陣にとって、上場することの意味やパブリックカンパニーの意識が希薄化し、目の前の業績にのみ囚われる傾向となる。上場企業の経営陣は、目の前の業績を向上させることや株価を上げることに注力すると同時、一般株主の利益を最大化することの視点を忘れてはならないことを改めて認識させられた。