ソニーの「事業等のリスク」記載、ここがすごい!

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今回は、「ソニー株式会社」の「事業等のリスク」の記載。非常に自社が抱えるリスクを感度高く取り上げ、そのリスクにどのように対処するのか、非常に熱っぽく記載されています。事実を淡々と記載する有報の中でも、記載手法により、このようにリスクに真剣に向き合っているのか、という実感させる内容です。

以下、ソニー株式会社の2020年3月期の有価証券報告書から、リスクの項目建てを抜粋したものです。この項目建ては、非常にインパクトがあるとともに、わかりやすく、企業開示としての誠実性を感じるものです。

(1) 新型コロナウイルス感染拡大は、ソニーの事業活動、業績及び財政状態に悪影響を及ぼし、その悪影響が今後も続く可能性があります。

(2) ソニーは収益又は営業利益率の低下に繋がりかねない一層激化する競争を克服しなければなりません。

(3) ソニーは、競争力を維持し消費者の需要を喚起し、製品及びサービスの革新を実現するために研究開発投資を行う必要があり、また新しい製品及びサービスの頻繁な導入を適切に管理しなければなりません。

(4) ソニーの戦略的目的を達成するための買収、第三者との合弁、投資、資本的支出、組織再編成、構造改革は成功しない可能性があります。

(5) ソニーの売上や収益性は卸売事業者、小売事業者、その他の再販売事業者及び第三者の販売業者の業績の影響を受ける可能性があります。

(6) ソニーはグローバルに事業を展開しているため、多くの国々において広範な法規制の適用を受けるとともに、 企業の社会的責任に関する消費者の関心の高まりに直面しています。

(7) ソニーは市況変動の大きい環境のなか、部品、ソフトウェア、及びネットワークサービスの在庫量、入手可能性、費用及び品質をコントロールするために第三者のサプライヤー及びその他のビジネスパートナーからの大量 かつ広範な調達品を管理する必要があります。

 (8) ソニーの売上、収益性及び事業活動は、世界及び地域の経済動向及び政治動向ならびに情勢に敏感です。

 (9) ソニーの業績及び財政状態は外国為替変動の影響を受ける可能性があります。  (10) 格付けの低下や国際金融市場における深刻かつ不安定な混乱状況は、ソニーの資金調達や資金調達コストに 悪影響を及ぼす可能性があります。

(11) ソニーの成功は、高い能力を持った人材との良好な関係の維持と、それら人材の採用・確保に依存しています。

 (12) ソニーの知的財産は不正利用や窃取の被害を受け、また、第三者が保有する知的財産のソニーによる利用が制 限される可能性があります。

ソニーは、「事業等のリスク」の記載については、なんと9ページにわたって記載しています。リスク項目は合計21項目。どの項目も非常に充実した記載内容です。 やはりトップは、新型コロナウイルス感染拡大のリスクについての記載でした。グローバルかつ多角的なビジネスを行っているソニーは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を、各事業ごとにどのような影響を受けるのか具体的に記載しています。

 また、各項目の表題が部分が他社とは全く異なります。「情報管理に関するリスク」「投資に関するリスク」という表題を記載してから、具体的内容を記載するのが通常です。ソニーは、表題から文章でスタートします。

以下項目は、特にインパクトがあるところです。

(2)ソニーは収益又は営業利益率の低下に繋がりかねない一層激化する競争を克服しなければなりません。

(4)ソニーの戦略的目的を達成するための買収、第三者との合弁、投資、資本的支出、組織再編成、構造改革は成功しない可能性があります。

(8) ソニーの売上、収益性及び事業活動は、世界及び地域の経済動向及び政治動向ならびに情勢に敏感です。

など、婉曲的な表現を使わずに直球でリスクを示しています。本当にわかりやすいし、みなさんから見ても、「誠実な開示だな~」という感じがしませんか。

 特に、

(11)ソニーの成功は、高い能力を持った人材との良好な関係の維持と、それら人材の採用・確保に依存しています。

の箇所は、リスクの開示をしながらも、自社の社員に対する愛を感じる表現です。ソニーは、かつて世界を席巻したブランド力を有するメーカーから、グローバルかつ多角的経営に変革していますが、今も、有報の文章から、ソニーの素晴らしいセンスを感じます。